多発性硬化症に有効な新薬が誕生

症状

「免疫システムを変える薬が、多発性硬化症の治療において“ビッグニュース”、“記念碑”になった」とBBCが報道。
オクレリズマブという新薬が、進行性および再発性の多発性硬化症(MS)の治療に有効であることが判明したのです。

免疫機能が脳と脊髄を誤って攻撃することでMSは起こりますが、再発性MSは、症状の悪化期間と症状がない期間を行き来し、軽度の症状を有しながら、やがて症状が悪化します。

オクレリズマブは、免疫系の一部であるB細胞を抑制することによって作用し、96週間にのぼる研究では、オクレリズマブを服用した人は再発率が年々低くなり、症状の悪化も見られませんでした。また、脳のスキャンでも、いままでの治療と比べ、脳への炎症、損傷が軽減していました。

しかしながら、オクレリズマブを服用した人は、感染症を含め、副作用を起こしやすく、重篤なケースも見られました。また、研究期間中に癌に罹患する可能性も高くなりました。

副作用を減らす処置ができるかどうかは不明であり、価格の問題の問題も出ました。オクレリズマブはモノクローナル抗体として知られ、このタイプの薬は非常に高価になります。

BBCは、「MSに悩むすべての人にこの薬を提供することはできないため、英国の患者は失望するだろう」と報道しています。

研究結果について

研究は、オクレリズマブを製造するFホフマン・ラ・ロシュ社の資金提供の元、米国、カナダ、イタリア、英国、ドイツ、スペイン、ポーランド、スイスの16の大学、病院、研究センターの研究者によって行われました。また、研究に携わった研究者の多くは、Fホフマン・ラ・ロシュ社の従業員、または株主です。

研究は、専門誌New England Journal of Medicineに掲載され、BBCは、関係する研究者、利害関係のない専門家からのコメントを含め、研究を客観的にまとめました。

どんな研究でしたか?

治療がプラシーボ効果、または他の治療法より優れているかを確認する最も良い方法として、無作為化比較試験(RCT)があります。

研究者は、再発性MS用のオクレリズマブの効果を確認するため、この無作為化比較試験(RCT)を用いました。

研究には何が含まれていましたか?

研究者は、再発性MSを患う18〜55歳の患者を被験者とし、オクレリズマブまたはインターフェロンベータによる96週間の治療を施し、96週間追跡調査を行い、結果を比較しました。

それぞれ、821人と835人の被験者(32ヶ国、300を超える試験センターから募集)に分けられ、二度、実施されました。

オクレリズマブは24週毎に点滴投与され、免疫細胞を抑制するため、再発性MSの治療に広く使用されているインターフェロンベータは1週間に3度注射で投与されました。また、患者がどんな治療を受けているのかわからなくするため、ダミーの点滴と注射も行いました。

そして、時間経過に伴う症状の変化やスキャンの変化などを調べ再発患者の数を調べたうえで、再発患者の数を調べました。これは、MS患者の脳、脊髄の炎症や傷害は、MRIによるスキャニングでわかるためです。

研究者らは、再発数についてデータを調べ、指標としてデータをプールしました。

研究結果

オクレリズマブを服用した人の再発数は、1年あたりの平均再発数より少なく、また、インターフェロンβを服用した人の再発数が0.29回だった対し、年間0.16回でした。1回目の治験で54%、2回目の治験では53%の再発率の減少が見られました。

オクレリズマブを投与した人は、12週間後に症状悪化の可能性が下がり、データを見ると、オクレリズマブ投与の患者の症状悪化は9.1%だったのに対し、インターフェロン投与の患者は13.6%でした。
 
オクレリズマブ投与群は、脳の損傷を起こす可能性が低く、傷害の数も、インターフェロンβ投与群に比べ少ないことがスキャンで確認できました

しかし、治療には、免疫系を抑制するため副作用があり、オクレリズマブ投与群では4人、インターフェロンベータ投与群では2人に癌が見つかりました。

また、研究を1年間延長したところ、5人に癌が発生し、その全員がオクレリズマブの投与を受けた患者でした。

治療によって癌が引き起こされたかどうかは不明ですが、免疫機能のひとつはがん細胞の増殖を抑えることなのは確かです。

オクレリズマブを投与された3分の1(34%)に、かゆみ、発疹、喉の炎症、紅潮の反応が出ました。また、治療を受けて回復したものの、1人に生命を脅かす深刻な反応がありました。感染症もインターフェロンを投与した患者よりも多く見られました。

結果の解釈

研究者は、「いままでT細胞(免疫系細胞のひとつ)によって引き起こされると考えられていたMSの発症は、B細胞(他の免疫系細胞)によるものであることが判明した」と述べたが、さらなる研究が必要と結びました。

おわりに

この研究は、MSの治療に新たな可能性を示したものの、MSが長期疾患なのに対し、研究期間が短い欠点があります。

オクレリズマブが承認されるとしても、期待に応えるようにするため、また、がんに対する副作用をチェックするためには、まだまだより長い年月がかかります。

再発性MS患者のなかには、既存の治療法をうまく使い、症状の再発はまれな人もいます。
しかし、ほとんどの患者は、時とともに症状が悪化し、日常生活に支障を来たします。オクレリズマブが神経系の損傷を軽減できるならば、これは非常に有益です。

しかし、この研究で見つかった癌は、懸念を引き起こします。確かに、いままでの治療法でも癌は発生しましたが、「強力な治療は副作用も強い」ということです。

より広範囲で、より長期的なオクレリズマブの研究が2017年にスタートします。その恩恵、その副作用が、より明確に示されることが期待されます。

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