アスピリンは、肥満者の遺伝による腸がんのリスクを下げる!?

治療薬

デイリーメール紙は、「アスピリンの常習的な服用で、肥満による腸がんのリスクが低下!」と報道しましたが、強烈な見出しから、過去に肥満だった人は研究対象ではないという事実を類推するのは困難です。

研究の対象は、「リンチ症候群」という稀な遺伝病で腸癌の発症リスクが高い人でした。その大多数は、成人期に腸がんを発症します。

この研究の大きな発見は、肥満もしくは太り過ぎは、リンチ症候群の人の腸癌リスクをさらに高めるということでした。

しかし、アスピリンを服用していた人には、BMI(body mass index)は腸癌とは関係がないということもわかり、リンチ症候群の患者の場合、アスピリンが腸癌リスクの軽減になる可能性が示されました。

しかしながら、この研究は、リンチ症候群ではない人にはあてはまらないだけでなく、消化管出血などのリスクがあるため、腸癌予防として長期間、アスピリンを服用すれば、デメリットのほうが大きいことを意味します。

健康的な体重の維持、健康的な食事、運動、禁煙は、腸ガンのリスクを軽減します。医師の相談なしにアスピリンは服用しないでください。

研究機関・研究者について

この研究は、英国の医学研究評議会、Cancer Research、EU、オーストラリアのCancer Council Victoria、南アフリカの科学技術機関、Sigrid Juselius財団、Finnish Cancer Foundationの資金提供の元、ニューキャッスル大学と他の国際的な研究センターの研究者によって行われました。

また、バイエル社とナショナル・スターチ・アンド・ケミカル社は、寄付金に加え、研究用の薬と偽薬を提供しました。

研究結果は、専門誌Journal of Clinical Oncologyに掲載され、Daily Mail、Daily Mirror、The Timesに報道されました。

どの新聞も、見出しからは「研究対象は稀な遺伝病で腸がんのリスクが高くなる人」ということはわかりません。その他の人への影響は不明のはずなんですが・・・。

また、研究の主な焦点はリンチ症候群を抱える肥満者へのアスピリンの影響だったのにも関わらず、アスピリンのみに焦点を当て、医師に相談せずアスピリンを服用するリスクについても触れていません。

どんな研究でしたか?

腸癌のリスクと関連する肥満ですが、この研究は、腸がんの発症リスクが高いリンチ症候群の患者と肥満の関係に着目しました。

遺伝性非ポリポーシス結腸直腸癌(HNPCC)としても知られているリンチ症候群は、腸癌のリスクを大幅に増大させ、ほとんどの人が、いずれ腸がんを発症します。そのため、予防のために、腸の全部または一部を除去する人もいます。

研究は、無作為に抽出したリンチ症候群患者のデータを分析し、アスピリンや抵抗性デンプンの服用が腸がんのリスクを軽減するかどうか分析しました。

そして、研究の結果、全般的にアスピリンの定期的な服用は腸がんのリスクを低減させることがわかったものの、研究者は、肥満と腸癌の関係を調べるため、被験者を調査しました。

研究の内容

被験者は、アスピリン600mg、耐性デンプン30g、または、偽薬を4年間(平均2年間)投与されました。腸癌の発症を確認するため、10年間の追跡調査を行いました(平均4.6年)。

被験者は平均44.9歳、研究前に腸全体を除去することなく癌細胞を取り除きました。また、BMIも測定し、34%が過体重(BMI・25〜29.99)、15%が肥満(BMI・30~)でした。
※現在、BMIの違いによる非癌性腸腫瘍または腸癌の発症リスクが研究されています。

年齢、性別、これまで服用した薬(アスピリンまたは抗性デンプン)、居住地、遺伝子が考慮され、アスピリンの効果はBMIに影響されるかどうか調べました。

研究の結果

追跡調査中に約6%の人が腸癌を発症し、肥満の人は、標準体重または標準以下の人の2倍以上、腸癌の発症リスクが高くなることがわかりました。一方、体重過多の人はわずかな差で、統計的に有意な結果は得られませんでした。

また、偽薬の服用グループの腸癌リスクとBMIは関連があり、アスピリンの服用グループの腸がんリスクとBMIの関連はありませんでした。

・全体として、BMIでリスクが7%増大
・偽薬の投与群では、BMIでリスクが10%増大
・アスピリン投与群では、BMIからは統計的に有意義な数値は得られなかった

研究結果の解釈

研究者は、「肥満はリンチ症候群患者の腸がんリスクを増大させるが、アスピリンはそのリスクを低減する。また、アスピリンの定期的な服用と同様、肥満の予防は効果があると思われる。」と結論づけました。

おわりに

この研究は、リンチ症候群の患者の腸癌のリスクがアスピリンで低下するという以前の研究の追跡調査で、リンチ症候群の患者が肥満の場合、腸癌のリスクはさらに増大することがわかりました。

また、アスピリンを服用している患者には、BMIと腸癌の相関関係は見られませんでした。
これは、アスピリンがBMIの影響を相殺している可能性があるものの、母体数が少ないため、理想的としては、更なる比較研究が必要です。

しかし、この研究は、普通の肥満者がアスピリンを服用した場合の効果を示すものではなく、肥満の人は腸癌のリスクが高い結果が出ました。

また、アスピリンを服用したとしても、リンチ症候群の患者と同じ恩恵を得ることはできず、胃腸出血の危険性が伴います。

太り過ぎや肥満は、腸癌だけでなく、他の健康問題にもつながります。食物繊維の十分な摂取、定期的な運動、禁煙、健康的な食事で健康的な体重を維持すれば、腸癌のリスクは低減します。だからこそ、医師に相談することなく、アスピリンを勝手に服用することは控えるようにしてください。

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