子癇前症の症状、リスク要因、治療法

妊娠中の女性のうち、約10%が子癇前症と診断されているとされています。幸い、その診断を受けたとしても、早期に発見され、治療されれば、健康な妊娠生活を送ることができます。ここでは、この症状があなたとあなたの赤ちゃんにどのように影響を与えるのかについて知りましょう。
妊娠高血圧症(PIH)や、妊娠中毒症という名前でも知られる子癇前症は、通常、妊娠が進んだ頃(20週ごろ)に進行します。特徴としては、突然の高血圧や、手や顔がひどく腫れる、正常に機能していない臓器がある(たとえば、尿たんぱくなど)などが挙げられます。妊娠32週以前に診断された場合は、早期型の子癇前症として知られています。
妊娠中の女性のうち、8~10%程度が子癇前症と診断されていると推測されています。この半数は、妊娠する前にもともと高血圧だった女性です。多くの場合、治療しなくても消散しますが、治療しないでおくと母体にも赤ちゃんにも危険を伴う可能性もあります。子癇前症を放置すると、胎児に十分な血液と酸素が送れなくなったり、母親の肝臓や腎臓にダメージを与えることにつながりかねません。まれに、発作を伴う、子癇という深刻な症状に発展してしまうことがあります。幸い、子癇前症は、定期的な診察を受けている女性なら、ほとんどの場合は早期に発見され、治療されるため、問題なく過ごすことができます。正しく素早い治療を行えば、出産の近い女性であっても、血圧の正常な女性の出産と変わりない出産をすることができると言えるといっても過言ではありません。
子癇前症の原因と考えられていること
子癇前症のはっきりとした原因は分かっていませんが、いくつか考えられていることはあります。
・遺伝
研究者によると、胎児の遺伝子構造が、妊娠中の子癇前症にかかりやすくなる原因の一つであると考えられています。もしもあなたのお母さん、もしくは旦那さんのお母さんが、あなたもしくは旦那さんを妊娠しているときに子癇前症にかかっていたとしたら、あなたの妊娠中にも子癇前症を起こす可能性があります。
・血管異常
妊娠中の女性の中には、通常は血管が広がるところ、収縮してしまうケースがあると推測されています。この血管異常が起きると、肝臓や腎臓に送られる血液の量が減り、子癇前症につながるのではないかと言われています。妊娠中に子癇前症を経験する女性は、その後の人生において心血管疾患にかかるリスクが高くなることから、高血圧の素因になっていると考えられています。
・歯周病
ひどい歯周病のある妊婦さんは、歯茎が健康な妊婦さんに比べると、子癇前症にかかる確率が二倍以上高い傾向にあります。専門家は、歯周病の原因となっている炎症が胎盤に渡ってしまうか、子癇前症を引き起こす化学物質を生み出していると推測しています。しかし、歯周病そのものが子癇前症を引き起こす原因となっているのか、関連性があるだけかどうかは、わかっていません。
・胎児に対する免疫反応
異物の侵入によって体が免疫反応を起こすという理論に則れば、女性の体が赤ちゃんと胎盤に感作されるということになります。体にくっついている胎盤と、そこから栄養を吸い上げる胎児は、いずれも異物であると体が判断してしまう場合があります。そうなった場合、血液や血管にダメージを与えるという反応がお母さんの体に起きてしまいます。赤ちゃんのお父さんもしくはお母さんの遺伝子がそうである場合、このような反応が起きやすい傾向にあります。
リスク要因
子癇前症は、どちらかというと初産の人に多いです。子癇前症と関連性の高いものはほかにもあります。
・糖尿病
・慢性高血圧または腎臓病、もしくはその両方
・肥満
・紅斑性狼瘡、関節リウマチ、強皮症などの自己免疫異常
・鎌状赤血球病
・血栓性素因
・多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)
・多胎妊娠
・体外受精(IVF)による妊娠
・40歳以上での妊娠
・妊娠性高血圧
・ビタミンE、ビタミンC、マグネシウムの不足
・妊娠26週までにビタミンDが不足していた
過去に一度でも妊娠中に子癇前症と診断されたことがある場合、将来的に再びかかる確率は3回に1回の妊娠とされています。この確率は、初産で子癇前症と診断された場合、もしくは、妊娠の早い段階で診断された場合に、より高くなります。
症状
妊婦検診の度に、医者は以下のような症状がないかどうか確認しなければなりません。
・食事に関係なく急に体重が増加した
・手や顔のひどい腫れ
・足首の腫れ(浮腫)が消えない
・アセトアミノフェンを服用しても消えない頭痛
・視界がぼやけたり、二重に見える
・おなかの上部の痛み
・タンパク尿
・血圧の上昇(これまでに高血圧と言われたことのなかった女性が140/90以上の血圧だった場合)
・鼓動が早い
・尿の量が少ない、もしくは濃い
・極端な反射反応
・腎臓の異常
こうした症状の多くは、(とくに体重増加や浮腫)健康な妊娠にも起こり得ますし、高血圧単体では、子癇前症とは言えません。このことから、症状を監視してくれる医者に定期的に診てもらうのが非常に重要になってくるのです。必要があれば、検査を依頼してください。
どのように診断されますか?
定期的に妊婦検診に行くことが、子癇前症の早期発見のために一番良い方法です。上記のような症状がないかどうか自分で気にしたり、症状が出たら医者に伝えるようにすることで、医者も早期に診断することができるようになります。妊娠前に高血圧だった時期があった人は、特に注意してください。子癇前症の診断の際は、医者は一つの症状を探すわけではなく、いくつかのパターンを見つけようとします。たとえば、タンパク尿は子癇前症の症状の一つですが、それがあるだけで子癇前症であると判断することは難しいです。
子癇前症の疑いがあると医者が判断した場合、正確に診断するために血液検査や尿検査をします。検査によって、尿にタンパク質が含まれていないか(タンパク尿)、肝臓中の酵素が極端に高くないか、血小板の数が100,000より少なくないかどうかを調べます。また、血液の凝固の度合いや、赤ちゃんが健康に育っているかどうかを調べます。
合併症
子癇前症を治療しないでおくと、以下のような状態に陥ってしまう恐れがあります。
・発作を伴う、より深刻な妊娠症状である子癇に発展し、母体と赤ちゃんをさらに深刻な状態にさらしてしまうリスクが高くなる
・肝臓がダメージを受けるなどのより深刻な合併症である、ヘルプ症候群(HELLP)に発展してしまう
・早産の原因
・胎盤が子宮壁から早い段階ではがれてしまう、胎盤早期剥離の原因
・母体の肝臓や腎臓にダメージを与える
妊娠中に子癇前症を発症すると、その後の人生において、心臓発作、脳卒中、高血圧などの腎臓病や心臓病にかかるリスクが高くなります。最近の研究によると、妊娠中に高血圧になる女性は、その後に代謝障害(そして必然的に心臓病も)を発症するリスクが通常の6.5倍にもなるというデータがあります。
定期的に医者の検診を受けていれば、早期に発見でき、早い段階で治療を受けることができるということを忘れないでください。つまり、正常な血圧の妊娠中の女性と変わらない健康な妊娠生活を送ることができるということです。
予防できること
多くの妊娠中の合併症と同様、子癇前症を予防するために一番良い方法は、妊婦検診を毎回受けるということです。そうすることで、どのような自覚症状でも医者と共有することができますし、それによって検査が必要かどうかを医者が判断することができます。子癇前症にかかるリスクを減らすためのその他の方法は以下の通りです。
・健康的な食生活をする
摂取カロリーに気をつけましょう(妊娠中の女性の多くは、それまでの食生活に300~500kcal上乗せするだけで大丈夫です)。また、食物繊維を豊富に含む果物や野菜、全粒粉、低脂肪タンパク質、乳製品を積極的に摂取するようにしましょう。
・体重を管理する
妊娠中の体重の増加を推奨されている範囲内に抑えるということは、母体にとっても赤ちゃんにとってもたくさんのメリットがあります。これを気をつけることで、子癇前症のリスクを減らすこともできます。
・アスピリンについて医者と相談する
子癇前症にかかるリスクの高い女性(以前にも妊娠中に子癇前症にかかったことがある、多胎妊娠、妊娠の初期に高血圧や糖尿病になった女性)にとって、少量のアスピリンの摂取は、子癇前症にかかるリスクを24%まで減らすことができます。妊娠中は、薬を服用する前には、必ず医者に確認するようにしてください。
・歯を健康に保つ
研究によると、歯周病になったことのある女性は、子癇前症にかかるリスクが増加するといわれています。少しでも予防の効果を上げるためには、妊娠前も妊娠中も良好な口腔衛生を維持するようにしましょう。そのためには、歯間ブラシを日頃から使ったり、半年に一回は歯科検診を受けるようにしましょう。
・妊婦用ビタミン剤を摂る
妊婦用ビタミン剤を使うことのメリットは、ビタミンDが含まれているということです。いくつかの研究によると、ビタミンが不足することが子癇前症にかかるリスクを増大させる可能性も指摘されています。(かといって、必要以上にビタミンDのサプリメントを摂取する必要はないということを覚えておいてください)ビタミンDは、一日当たり600 IU (international units)必要であるとされており、効果的に摂取する方法は以下の通りです。
・日光:太陽の光を浴びると、体内でのビタミンDの生成を助けてくれます。一週間あたり10~15分程度の日光浴で十分でしょう。
・脂肪の多い魚を食べる:妊娠中に食べても問題のない、鮭やツナ缶などの魚には、ビタミンDがたくさん含まれています。専門家によると、一週間あたり8~12オンス食べるのが理想です。
・栄養強化食品の摂取:シリアル、オレンジジュース、牛乳などは、製造の段階でビタミンDが加えられているものがほとんどです。
治療法
子癇前症は検査によって発見することができますが、出産しないと完治はしません。子癇前症を患う妊婦さんのうち、75%は症状が軽いとされていますが、早い段階で診断され、適切な治療を受けなければ、すぐに重症化したり、子癇に発展してしまう恐れがあります。重症化してしまうと、血圧がもっと高くなり、かつその状態がより頻繁に起こります。また、臓器がダメージを受けたり、正しく治療されないとより深刻な合併症を引き起こしてしまうことがあります。
症状が軽い場合は、医者は以下のようなアドバイスをしてくるでしょう。
・症状が進行していないかどうかを確かめるために、定期的に血液検査や尿検査を実施する(血小板数、肝臓酵素、腎臓の働き、タンパク尿の値を調べる)
・赤ちゃんが蹴る回数を数える
・血圧を管理する
・食生活を見直す(タンパク質をもっと摂取する、塩分を控える、一日に最低8カップ以上の水を飲むなど)
・寝るときは左側を下にして寝る(血圧を下げ、胎盤により多くの血液が送られることが期待される)
・37週を超えて赤ちゃんが身体的に十分に発達したら、できるだけ早く出産する(誘発分娩や、可能な場合、帝王切開)
より重症な場合には、病院での治療が必要になります。医者は、以下のようなことも併せて提案してくるでしょう。
・より注意して胎児を監視する(ノンストレス試験、超音波検査、心拍数の検査、胎児の成長の度合い、羊水の量を調べる)
・血圧を低くするための薬を処方する
・子癇への発展を予防するために、硫酸マグネシウムと呼ばれる電解質を服用する
・妊娠34週に達した段階で状態が安定していれば、出産を早める。この場合、赤ちゃんの肺機能の発達を早めるために、妊娠期間に関係なく、薬(コルチコステロイド)を服用し、直ちに赤ちゃんを取り出すことがある。
幸い、子癇前症にかかっている妊婦さんのうち、97%の女性は、出産後6週間以内には健康な状態に戻るとされています。ただし、出産後の数日間は、血圧の状態が悪化することがあるので、注意が必要です。