高脂肪の食生活が糖尿病を予防できるという主張は「立証されていない」

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「バターやクリーム、チーズがたっぷりの食生活は『2型糖尿病の急増と戦うのに役立つ』」とMail Onlineは報じています。
しかし報道で取り上げられた研究は、少人数の男性のグループを12週間追跡しただけであり、糖尿病やその他の慢性疾患を予防するかどうかを判断するのに十分な時間はかけていませんでした。
この研究では、被験者である38人の肥満の男性が無作為に2グループに分けられ、エネルギー量は体が「燃やす」ために使うだけの量の厳しく管理された食事を食べました(2グループとも摂取カロリー量は同じです)。
第1グループでは、エネルギー源は主に炭水化物で(総カロリー摂取量の53%)、第2グループでは主に脂肪(総カロリー摂取量の73%)でした。
両グループの男性とも、この食生活により12週間後に体重と体脂肪が減りました。特定の血糖値とコレステロールマーカーにわずかな違いがあっただけでした。何の結論も得られません。
この研究の主な問題点は、規模が非常に小さいことであり、短期的な影響しか見ていないことです。食生活が糖尿病や循環器系疾患に与える長期的な影響について、この結果から何かを結論づけることはできません。
この研究の報告では言及されていない重要な事実は、両グループの食事とも、被験者の今までの食事よりもカロリーは少なかったということです。これは体重を減らすための魔法の弾丸はないという事実を強化します。単純に食べる量を少なくし、もっと運動するだけです。
確かにこの研究は好きなだけたくさんの脂肪を食べて良いと示す青信号ではありません。しかし、健康的な不飽和脂肪はバランスの取れた食事の一部として食べるべきです。

この論文は誰が執筆しましたか?

研究はノルウェーのベルゲン大学の研究者によって行われ、査読された上でAmerican Journal of Clinical Nutritionに掲載されました。西ノルウェー地域保健局、Meltzerfondet、ベルゲン医学研究財団、ベルゲン大学の資金提供を受けました。いくつかの企業がこの研究で使う製品を提供しました。
Mail Onlineの調査報告は不十分なものでした。短期間の研究の結果を長期的なメタボリックシンドロームや循環器系疾患のリスクに対する効果にあてはめて推定しようとするのは避けるべきだと、この研究の最後の段落で研究者は警告しています。しかしこれはまさにMail Onlineがしたことです。
Mail Onlineがなぜ高脂肪食を「2型糖尿病の急増に対抗できる」と結論付けたのか非常に理解に苦しみます。空腹時血糖値の低下は、実際には第2グループではなく第1グループで見られたものです。
そして、他の数値についてはグループ間にほとんど差が見られませんでした。この研究では、2種類の食事のうちのどちらがより優れているかどうかは分かりませんでした。

これはどんな種類の研究でしたか?

このランダム化比較試験(RCT)は、摂取するのが脂肪か炭水化物かによって、内臓脂肪の量とメタボリックシンドロームの検査数値が異なるという理論を調査することを目的としています。
メタボリックシンドロームとは高血圧、高コレステロール、血糖値のコントロール不良、肥満などのさまざまな症状の総称であり、循環器系疾患や糖尿病のリスクが高まります。
食事内容の違いによって、メタボリックシンドロームを発症する可能性が高くなる人もいると考えられています。
ランダム化比較試験は、治療の効果を調べる最良の方法です。
しかし、無作為化比較試験で食生活を評価することの難点は、試験を実行するために、短気の研究に留まり被験者も少なくなることが多いということです。つまり、研究の結果は人口全体に適用できる徹底的な結論を出すことはできません。

具体的にはどんなことを行ったのですか?

この研究では新聞広告で、30歳以上50歳未満で肥満指数(BMI)が29以上の肥満の男性を46人募集しました。重度の病気がある人や定期的な薬物療法を受けている人、または最近体重を減らし始めた人は除外しました。
男性は無作為に2グループに分けられ、下記2種類の食事のうちどちらを12週間食べ続けました。
・脂肪からのエネルギーは73%、炭水化物からのエネルギーは10%の超高脂肪、低炭水化物(VHFLC)の食事
・脂肪からのエネルギーは30%、炭水化物からのエネルギーは53%の低脂肪、高炭水化物(LFHC)の食事
両方とも1日あたりのエネルギー摂取量は同じであり(8,750 kJ /日)、タンパク質からのエネルギーは17%でした。また、両方とも低血糖指数(GI)パターンに従い、食後に血糖値が急激に上昇しないようにしました。両方のグループに、1日に500g以上の果物や野菜を摂取し、週に2回魚を食べるように指示し、バターやココナッツオイル、砂糖の代用品は規定量だけを支給しました。
各グループには、それぞれのグループが食べる食事にあわせたレシピ本も与え、実験で実践する食生活を理解するために実験に先立って講座を受講させました。被験者には毎月5日間分の食生活の記録をつけ、毎日食べ物の重さを量るよう求めました。
運動量も同じく記録するように求め、指示された食生活に厳密に従えるか質問し、実験には正確さと誠実さが重要だと伝えました。
研究者は血液サンプルを分析して脂肪レベルと血糖値を調べ、被験者の呼吸機能を調べ、CTスキャナーを使用して体組成を調べました。

何がわかりましたか?

様々な理由で実験から離脱する人がいたため、最初の46人のうち38人だけが分析に利用できました。LFHCグループから18人、VHFLCグループから20人です。
12週間の間に両グループとも体重は約11~12kg減り、BMIも3.6減少しました。皮下脂肪と内臓脂肪は両群とも約20~30%減少しました。ウエストは11~13cm減少しました。グループ間に有意な差はありませんでした。空腹時血糖値はLFHCグループのみ減少しましたが、インシュリンなど血糖コントロールに関わる他の測定値にはグループ間の差はありませんでした。あるタイプの脂肪(トリグリセリド)のレベルは、両方のグループで減少しました。低密度(「悪玉」)コレステロールはLFHCグループでのみ減少しましたが、高密度(「善玉」)コレステロールはVHFLCグループでのみ増加しました。最初の8週間以内に改善が認められたのはVHFLCグループで、LFHCグループではより緩やかでした。

研究者はどう結論づけましたか?

研究者らは、「3ヶ月間エネルギー源を炭水化物を主とするかまたは脂肪を主とするかは、どちらも加工食品を少なめにし低血糖指数パターンに従った場合、内臓脂肪およびメタボリックシンドロームに差異をもたらさなかった」と結論付けました。
「私たちの研究結果は、食事中の脂肪そのものが人間の体脂肪を増やしメタボリックシンドロームのリスクを高めるという考えは支持しません」

結論

この小規模な試験は、エネルギーが同量の、厳密に管理され低血糖指数パターンに従った食事の間に差異があるかどうかを調べることを目的としていましたが、どちらも主に脂肪または炭水化物をベースにしています。
全体的に、研究者は、どちらのグループでも体重と脂肪が減少し、特定の血糖値とコレステロールマーカーにわずかな差が出たのを除いて両者の差はほとんどなく、出た差も解釈が困難な程度でしかありませんでした。偶然差が出ただけの可能性があります。
研究者は、ダイエットや他の生活習慣を注意深く管理し、実験で見出された効果が指示した食事のみから来ていることを確認しようとしました。
しかし、この試験にはいくつかの重大な限界がありました。1つは、8人が実験から脱落する前から、実験規模が非常に小さかったということです。研究者自身が認めたように、この研究ではグループ間の結果の差を確実に認識できるほど十分な数の被験者はいなかったかもしれません。
被験者は全員肥満だったため、被験者に表れた効果は他の人と単純に比較できない場合があります。
最も重要なのは、体重、血糖、体脂肪を3ヶ月という短期間に測定しただけでは、長期的な影響については何もわかりません。つまり、糖尿病や心血管疾患の長期的なリスクは結論できません。
この比較的簡単で小規模な研究から結論はほとんど出ません。食事と健康に関する私たちの現在の定説を変えるものではありません。
体重を減らしたり、正常な体重を維持したり、病気のリスクを減らしたりする最も良い方法は、現行の食事や運動のガイドラインに従うことです。炭水化物、タンパク質、脂肪をバランスをとりながら食べることを目指すべきです。

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