糞便培養法について知っておきたいこと

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糞便培養法が使われる場合とはどんな場合でしょうか?

糞便培養法は、病原菌がいるかどうか検出するために使われる方法で、消化器官(胃腸管)の感染症の診断に役立つものです。胃腸感染症の原因には様々な種類があるため、糞便培養法は、胃腸感染症病原体検出キット(GI pathogens panel)、検便による寄生虫検査などの他の検査方法も使用することで、診断結果を確立させることができます。

胃腸感染症病原体検出キットは、ウイルス、バクテリア、寄生虫という胃腸感染症の原因として一般的なものについて、同時に便のサンプルで検出できるものです。こうしたキットは比較的新しいもので、費用効果を高くしながら、患者の診断結果を最適化することにどのように利用できるかどうかについて、医師や検査機関が決定します。胃腸感染症病原体検出キットによって病原菌が特定されない、または胃腸感染症病原体検出キットに含まれていない可能性のあるバクテリアや寄生虫の疑いがある場合は、検便による寄生虫検査が行われます。

米国における、多くの胃腸感染症では、サポート的なケアが行われるだけで、特に治療は行われません。また、検査も行われません。健康な人にとっては、感染症は一般的な病気として考えれれており、深刻なものではなく、お腹の風邪や悪いものを食べたと考えられるものです。しかし、胃腸感染症の原因を特定するための検査を行うことが有益なケースもあります。検査により、治療法、感染源の排除、感染の拡大の防止がわかります。

検査機関は通常、胃腸感染症を起こす一般的なバクテリアを検出するために糞便培養法を行います。一般的なバクテリアは次のものがあります。
カンピロバクター菌
サルモネラ菌
シゲラ(赤痢菌)

バクテリアの中には、毒素を作り出すことにより、病気を起こすものがいます。バクテリア自体を培養することもありますが、糞便培養法によるバクテリアの検出に使用されるのはバクテリアの出す毒素を抗原検査もしくはPCRを使い、直接検出する方法です。例には以下のものがあります。
大腸菌O157:H7
クロストリジウム・ディフィシレ

患者の病歴や渡航歴により、他の病原菌や潜在的な病原菌についての検査が行われることもあります。例は以下の通りです。
アエロモナス属
プレシオモナス属
エルシニア・エンテロコリチカ
ビブリオ種

糞便培養法が使われるのはいつでしょうか?

以下のような胃腸感染症の兆候や症状が見られた時に、糞便培養法が行われます。
数日以上続く下痢や下痢に血液や粘液が混ざっている場合
腹痛や痙攣がある場合
吐き気や嘔吐がある場合
熱がある場合

こうした症状が起きた人全てが検査や治療を行う必要があるわけではありません。免疫系が健康的な人に対しては、サポート的なケアを行うだけで、抗生物質の投与を行わなくても、通常胃腸感染症は改善します。糞便培養法は、以下のような症状が出た人に対して行います。
深刻な症状があったり、脱水症状、電解質不均衡、その他の合併症がある場合
小さな子供や高齢者、もしくは免疫系の弱い人の場合(米国疾病対策センターによると、下痢は世界的には死をもたらしている病気です。世界中の5歳以下の子供の子供の死亡原因の第二位です。1日に2,195人の子供が世界中でなくなっていると推定されます。
症状が長引いていて、治療を受けない限り感染症が治らない場合
発展途上国など、米国国外に旅行している間に胃腸感染症にかかった場合(米国疾病対策センターによると、米国国外に旅行した旅行者の30-70%が胃腸感染症にかかっていると推測しています。
調理が不十分な肉や卵や、他の人が胃腸感染症にかかったのと同じ食べ物など、病原菌に汚染された食べ物や飲み物を摂取した場合
胃腸感染症や食中毒の拡大が広がり、医療機関が調査を行い、原因を特定している場合(例としては、農産物が汚染されている場合や、特定のレストランからの汚染された食べ物の場合、クルーズ船内での胃腸感染症の発症の場合など)

医師は、自己治癒した場合であれ、治療を受けた場合であれ、以前に胃腸関連の病原菌感染症にその人がかかっている場合には、1回ないし2回分の糞便培養法を行うことがあります。これは、病原菌がすでに検出されないことを確認するために行うことがあります。これはその人が保菌者となってしまうことがあるからです。保菌者は自分自身は病状がでませんが、他の人を感染させることがあります。

検査結果が意味するものは何でしょうか?

糞便培養法により、病原菌が陽性と出た場合、その人の下痢やその他の症状の原因である可能性があります。検出された病原菌の名前は逐次結果報告されます。

米国において、感染症の原因となる、一般的な病原菌とその菌が頻繁にいる食べ物の例は以下の通りです。
カンピロバクター菌
生や調理が不十分な鶏肉や低温殺菌処理されていない牛乳に見られるものです。米国では最も一般的な細菌性下痢の原因です。血液にまで広がった場合には深刻で、関節炎やギラン・バレー症候群などの長期的合併症を引き起こす原因となる可能性があります。
サルモネラ菌
生卵(無傷で殺菌された卵であっても)、生の鶏肉、未調理の野菜、ペットのトカゲや亀などの爬虫類は、その生き物には無害でも胃腸の中にサルモネラ菌がいる場合があります。人の中にはサルモネラ菌の保菌者となっている人もいます。サルモネラ菌は人から人に移ることもあります。
シゲラ(赤痢菌)
便によって汚染された食べ物や水にみられ、公衆衛生が清潔に保たれていない場合は、感染した人から人に移る可能性があります。例えば、非常に少数の菌がこの病気を感染させてしまうため、家族間や保育所、老人ホーム内での感染を予防することは困難です。

様々な種類の病原菌が、胃腸感染症の原因となることがあり、糞便培養法の検査を行うことがあります。以下はその事例です。
大腸菌O157:H7と他の毒素を作り出す大腸菌(大腸菌のほどんどの菌株は正常細菌叢と考えられており、病気の原因にはなりません)は、生肉や調理が不十分なハンバーガーや牛肉、ほうれん草、低温殺菌されていないりんごジュースなどのみられます。これは血の混じった下痢を引き起こし、溶血性尿毒症症候群を起こす原因にもなる可能性があります。
クロストリジウム・ディフィシレ
正常細菌叢の一部としてみられるものですが、広域抗生物質の利用はこうしたバクテリアの異常繁殖に繋がることもあります。
毒素を生み出す菌株は、下痢やその他の深刻な合併症の原因になる可能性があります。こうした菌株が原因として疑われる場合は、クロストリジウム・ディフィシレを検出する検査が別途行われる場合があります。
一般的ではありませんが、以下の菌も原因となります。
アエロモナス属
プレシオモナス属
エルシニア・エンテロコリチカ
ビブリオ・コレラ菌とその他のビブリオ種

糞便培養法の結果、陰性と報告された場合は、通常は糞便培養法で一般的な病原菌が発見(分離)されなかったことを反映しています。結果には「カンピロバクター菌は分離されませんでした」「サルモネラ菌もシゲラも分離されませんでした」などと書かれています。
糞便培養法で主な病原菌が検出されなかった場合は、患者の兆候や症状は他の原因や、一般的ではない病原菌によって起きている可能性があります。それでも胃腸管にバクテリアがいる可能性はあり、検査された検便のサンプルにはあまりにも少数のバクテリアしかいなかった可能性はあります。この場合を医師が疑う場合で、症状が続く場合は、糞便培養法を行うために別の検便サンプルを採取して、検査を再度行うこともあります。ほどんどの下痢は一つの病原菌が原因ですが、一つ以上の病原菌に感染している可能性はあります。

知っておいたほうが良いことは他にありますか?

深刻な胃腸感染症と合併症は、抗生物質で治療することが可能ですが、多くの単純な胃腸感染症のケースについては治療を行わなくても大丈夫です。健康な免疫系を保っている人は、1週間以内で回復します。この場合は、感染症の拡大をどのように防止すべきかについて指示を受け、脱水症状がでないかについて監視するように言われます。
病原菌感染症は、コミュニティーや国家のレベルで監視することがあります。海外旅行で発症したケースとは違い、保険関連局はどこから感染源がきたのか特定し、その地域に公衆衛生上の問題を知らせることができます。食中毒の原因となった細菌分離株は、米国州立公衆衛生研究所に送られ、分子法で種類が特定されます。種類特定の結果は、米国中の共通感染源を検出するために、米国国家データベースにアップロードされます。このデータベースにより、特定の食べ物や製品が感染源となっているか特定することに役立ちます。
旅行者下痢は、毒素を生み出す大腸菌によって起きますが、アフリカ、アジア、ラテンアメリカに旅行した人たちの細菌性下痢の主な原因になっています。しかし、大腸菌株は溶血性尿毒症症候群の原因となる、大腸菌O157:H7株とは違うものです。

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