研究によると1日15分歩くと「寿命が延びる」?

毎日15分歩く効果
Mail Onlineの報道によると、毎日15分歩くと「寿命が延びます」。日々の少しの運動でもより長く生きるのに十分かもしれないと報告するニュース媒体はいくつかあります。
毎日15分の運動をした60歳以上の人々は、全く運動をしなかった同年代の人と比較して、早期に死ぬリスクが22%低下していることが判明しました。
健康を維持したり、健康状態を改善するために、成人は週に少なくとも150分の中程度の運動をすることが推奨されています。しかし、多くの高齢者はこの目標を達成できません。
この研究の著者らは、週に75分の運動でも有益だと判断しました。彼らは、目標を低くすることにより、より多くの成人が運動することを促すことができると結論付けました。とはいえ、運動量が多いほうが、病気のリスクや早期死亡リスクが低くなることは認めています。
この所見は、平均10年間追跡調査した被験者総数12万人以上の9つの調査の結果に基づいています。研究者は、定期的な運動が、たとえ推奨される150分よりも少なくても、早期死の危険性を減少させることを発見しました。全体的な結果は、推奨される目標を達成できない場合でも、あらゆる運動が健康に良いことを示唆しています。
しかし、Daily Telegraphのように「運動目標を削減すべきだ」と言うのは時期尚早です。この研究には限界があります。特に、観察研究の結果をまとめることによって提供された知見だという事実は大きいです。つまり、死亡の危険性がどれくらい減少しているかが、被験者が行った身体活動量の直接的な結果なのかどうかを知ることは困難です。 60歳以上の人々の理想的な運動量を探るためには、さらなる研究が必要です。
高齢者は、中等度の有酸素運動を週150分行うことが推奨されています。これは、活発なウォーキング、ガーデニング、ダンス、水泳などの10〜15分の活動を足し合わせて行うことができます。毎日何らかの運動をするほうが何もしないよりも良いということは、どの年齢でも当てはまります。
この論文は誰が執筆しましたか?
この研究は、フランスのサンテティエンヌ大学病院、リヨン大学、ディジョン大学病院、ブルゴーニュ大学、地域がん予防センター、ジャンモネ大学、スイスのジュネーブ大学病院の研究者によって行われました。資金源は説明されていません。査読された上で、British Journal of Sports Medicineに掲載されました。
この研究結果はメディアで広く報道され、より良い健康と平均余命の向上のための勧告とガイドラインとなっています。
これはどんな研究でしたか?
60歳以上の人の、低程度の運動や中程度の運動、激しい運動が早期に死亡するリスクを低減するかどうかを判断することを目的とした、体系的な再調査とメタ分析です。 60歳以上の成人は、現在週に150分間の運動をするように推奨されていますが、これは必ずしも達成できないことは認識されています。
ある仮定を調査したすべての関連研究を見つけ、結果を組み合わせて効果について全体的な結論を導き出すのに、体系的な再調査は有用です。しかし、所見の信憑性は利用する研究の質に依存します。
被験者はどんな人ですか?
2つの文献データベース(PubMedおよびEmbase)を、英語仮説コーホート研究のために2015年2月まで検索しました。
60歳以上の人々を対象とするため適格な研究が必要であり、少なくとも3年間の追跡調査中に、運動量が死因に関連していたかを調べました。
主な研究結果はどのようなものでしたか?
60歳以上の被験者総数があわせて122,417人(女性73,745人、男性48,672人)になる9件の研究が用いられました。被験者の平均年齢(7つの研究について)は72.9歳であり、平均9.8年間追跡されていました。利用した研究のうち6件は米国から、2件は太平洋地域から、もう1件はアジア地域のものでした。
研究者は、週に150分未満の少量の運動をすると、運動を全く行わない場合と比較して早期に死亡する危険性が22%低下したことを発見しました(相対リスク[RR] = 0.78,95%信頼区間[CI] 0.71〜0.87 )。男性で14%、女性で32%と、男女間で大きな違いが見られました。
推奨されている週に150分の運動をしている被験者は、運動を行わない被験者と比較して死亡率が28%減少しました(RR 0.72,95%CI 0.65〜0.80)。
推奨量150分を超える被験者は運動を行わない被験者と比較して死亡率が35%減少しているため(RR 0.65,95%CI 0.61〜0.70)、運動量が死亡率に与える効果は、運動量が増えるほど増すと思われます。
研究者はどのように結果を解釈しましたか?
研究者らは、運動が「高齢者の全死因死亡率を低下させる」と結論づけました。運動し始めの最初の数分が健康に最も有益であったこともわかりました。
研究者は、運動すればするほど健康上の利益が大きくなることは認めています。しかし、1日に15分しか運動を行っていない人でも健康上の利益があることがわかりました。
結論
この体系的な再調査とメタ分析は、60歳以上の成人について早期に死亡する危険性を減らすのに、推奨されたレベルよりも少ない運動でも効果的かどうかを調査することを目的としていました。
この研究では、推奨された量を下回る運動も、高齢者の死亡率を低下させることが判明した。ただし、運動のレベルが高いほど早期に死亡する危険性はより低くなります。
この研究は体系的な再調査方法に強みを持っています。運動効果を評価した研究文献を20年以上前に出版されたものから検索し、方法論的に質の良い研究のみを利用しました。
しかし研究結果は、利用した研究の結果ほど信頼できるものではありません。いくつかの制限事項は次のとおりです。
・9件の研究はすべて観察的研究でした。研究者は、結果に影響を与える他の要因のある人に対しては調整されたリスク数値を使用しています。しかし、9つの個々の研究が扱った他の要因は報告されておらず、同一ではない可能性があります。他の健康要因や生活習慣が運動量と死亡リスクの両方に影響を及ぼす可能性があります。例えば、死亡リスクが増加する病気を持つ人は運動量も少ないかもしれません。同様に、より多くの運動をする人は、喫煙しない、アルコールを少ししか飲まない、健康でバランスの取れた食事を食べるなど、他にも健康的な生活習慣をしていることもあります。全体として、これは、運動量が死亡リスクに及ぼす直接的影響を取り出すことを困難にします。
・全体的な被験者総数は大きかったものの、被験者の大部分は9つの研究のうちの2つからの人でした。
・身体活動や「投与量」の定義は異なる可能性があります。
・英国での調査は含まれていませんが、英国は人口構成がさまざまなので、民族的、文化的、環境的要因が結果に影響を及ぼし有用性に限界ができる可能性があります。
英国の多くの人々が推奨される運動量を達成できていません。この研究は、たとえ推奨量を満たすことができなくても、何もしないよりは良いということを示唆しています。
しかし再調査には限界があるので、高齢者向けに運動量を減らすことを推奨する前に、さらに研究して理想的な運動レベルを調べることが必要になるでしょう。
定期的に運動をすることは健康に大きなメリットがあるので、できるだけ積極的に運動することは誰にとってもに有益です。定期的な運動は、心臓病、脳卒中、糖尿病、癌などの多くのの重大な疾患のリスクを低減することができます。
また、運動はメンタルヘルスに有益な効果をもたらし、ストレスやうつの減少など精神面にいくつかの影響を及ぼし得ます。