33000人の死は心臓発作のケア不足が原因

「ケアを怠ったせいで数千人が心臓発作で亡くなった」とDaily Mailは述べています。
過去10年間のイングランドおよびウェールズの臨床データを再調査したところ、非ST上昇型心筋梗塞の病歴を有する患者が見つかりました。非ST上昇型心筋梗塞は、入院が必要になる程度に深刻ですが、典型的な心臓発作と同じく大きな危険は引き起こさない心臓発作が特徴です。
非ST上昇型心筋梗塞があった約39万人のデータが再調査のデータに含まれていました。患者のうち約87%が、国際的に推奨された心臓発作対策を1つ以上していないことがわかりました。すべての患者が推奨された対策すべてをした場合、10年間にわたって32,765人(28.9%)の死亡が防げた可能性があると推定されています。
しかし対策のいくつかは、禁煙や食生活の改善など生活習慣に関するアドバイスであることを考慮することが重要です。心臓発作後にこのようなアドバイスを受けてもすべての人が従うとは想定できません。
この発見は、データが欠落している、または誤って記録されている点についても限界があります。研究をきちんと計画しても原因と結果を証明することはできませんし、寿命に影響を与えたと思われる心臓発作対策以外の要因は多くあります。
データは確かに考慮する価値があります(予防可能な死が多すぎます)。しかし、メディアが報じたように「ケアを怠ったせいで数千人が心臓発作で亡くなった」ことは証明されていません。
非ST上昇型心筋梗塞から回復する
非ST上昇型心筋梗塞は一番深刻なタイプの心臓発作ではないかもしれませんが、それでも深刻な緊急事態です。生活習慣を今すぐ変える必要があるという警告だとみなすべきです。
非ST上昇型心筋梗塞または他のタイプの心臓発作があった場合、処方薬を全て服用し、医者の指示に従ってください。
健康的な食生活を送る、健康的な体重を維持する、制限範囲内で定期的に運動をする、禁煙など、生活習慣を変えましょう。
この論文は誰が執筆しましたか?
この研究は、University of LeedsとUniversity College Londonを含む多くの機関の研究者によって行われました。資金は英国心臓財団と国立健康研究所が提供し、査読の上でEuropean Heart Journal:Acute Cardiovascular Careに掲載されました。
この研究は英国で広く報道されています。報道自体は正確ですが、研究の本質的な限界については言及していません。
Daily MailとDaily Telegraphは、英国心臓財団のメディカル・ディレクター、Peter Weissberg教授の次のような発言を引用しています。「この研究は、多くの英国人が心臓発作後に最適ではないケアを受け、その結果寿命が縮んでいることを示しています。心臓病対策のガイドラインに従ってもほとんどお金はかかりませんし、長期的にはお金が節約できて、最も重要なことには命を救えます。」
これはどんな研究でしたか?
このコーホートスタディーは、非ST上昇型心筋梗塞を有する患者のケアのガイドラインが守られているかどうかを調べるために作成された、英国国立心臓発作記録からのデータを用いました。
非ST上昇型心筋梗塞とは、心臓発作やそれに伴い心臓酵素が上昇することなどが症状としてありますが、ECGモニターを使っても典型的な心臓発作兆候(ST上昇)が見られない心臓発作の一種です。典型的には非ST上昇型心筋梗塞では、心臓への血液供給は完全には遮断されず、部分的に遮断されるだけです。その結果、心臓の小さな部分が損傷を受けます。しかし、非ST上昇型心筋梗塞は深刻な緊急事態とみなされています。
典型的な心臓発作では薬や冠動脈造影で治療が必要な詰まった血管を見つけますが、非ST上昇型心筋梗塞は治療法が少し異なります。
このタイプの研究は、非ST上昇型心筋梗塞の人に最良のケアが提供されているかどうかを調べるのに良い方法です。しかし、この記録から収集されたデータは調査のためだけに作成されたものではない(関係する全ての要因が記録されているわけではないなど)ので、目的に合っておらず、データに偏りがある可能性があります。
どんなデータを使いましたか?
研究者は非ST上昇型心筋梗塞の調査のために欧州心臓学会のガイドラインを使用し、これを英国の登録データにマッピングし、ガイドラインに示された対策が続いているかどうかを調べました。
登録されていたデータには、2003年1月1日から2013年6月30日の間に非ST上昇型心筋梗塞になってイングランドとウェールズの247病院に入院した成人が載っていました。
非ST上昇型心筋梗塞の症状は、記録されていた退院診断を用いて特定しました。病院で死亡した人、投薬治療を受けたか不確かな人、死亡データが欠落している人は除外しました。
データには、13の対策に対応する情報が含まれていました。以下にその一部を挙げます。
・心電図
・アスピリン
・血圧治療薬 – ベータブロッカーやACE阻害薬など
・抗凝固薬 – この研究ではP2Y12阻害薬
・スタチン
・心臓エコー
・禁煙のアドバイス
・食事のアドバイス
・心臓リハビリプログラム
主な研究結果はどのようなものでしたか?
合計389,057人の成人が分析の対象になり、平均年齢は70.9歳でした。研究者は、86.9%の人はが対策を心臓発作対策を1つ以上していると記録されていないことを発見した。
されていなかったことが多かった対策としては、
・禁煙のアドバイス(87.9%)
・食事のアドバイス(68.1%)
・P2Y12阻害剤(66.3%)
・冠動脈造影(43.4%)
施されていなかった対策のうち、生存率の低下に最も大きな影響を及ぼすと推定された対策は、
・冠動脈造影
・心臓リハビリテーション
・禁煙のアドバイス
・スタチン
収集されたデータをモデリングした結果、対象となるすべての患者が推奨された対策のすべてをした場合、10年間に32,765(28.9%)の死亡が防げた可能性があることが分かりました。
研究者はどのように結果を解釈しましたか?
非ST上昇型心筋梗塞で入院した患者の大部分は、必要だったのにもかかわらずガイドラインに示された心臓発作対策を1つ以上行わず、寿命が縮んだと研究者は考えています。
非ST上昇型心筋梗塞を管理するためにガイドラインで挙げられたケア法により関心を持てば、心臓病で早くに亡くなることを防げると結論付けました。
結論
この研究は、非ST上昇型心筋梗塞の成人が、ガイドラインに載っている必要なケア全てを提供されているかどうかを調べることを目的としていました。
研究者は、欧州心臓学会が定めたガイドラインを用い、約87%の患者には13の対策のうち1つ以上を受けているという記録がないことがわかりました。
この研究には、強みと限界があります。強みは、英国における非ST上昇型心筋梗塞のケアの質を評価するために設計された大規模なデータだということです。
しかし、研究結果はいくつかの要因を考慮する必要があります。
データ分析の研究結果は、データの記録は完全ではなく、分類を誤ってしまう可能性があるため、常に限界があります。例えば、禁煙や食事に関するアドバイスなどの対策が、カウンセリングではなく心臓リハビリテーションとして分類される可能性があります。
また、元データでは薬品の禁忌や患者の拒否などで、医者が対策をしない理由は記録されていました。しかし、患者側が対策を受け入れなかった理由は記録されていませんでした。
研究者は、服用した薬についての情報が不完全であったため病院で死亡した31,000人以上の人のデータを除外し、死亡データがなかった21,000人以上の人のデータも除外しました。除外したデータの結果によっては、研究結果も大きく変わる可能性があります。
また、研究をきちんと計画しても原因と結果を証明することはできません。寿命に影響を与えたと思われる心臓発作対策以外の要因は多くあります。
研究している最中にも心臓発作対策に向上が見られました。今日のデータだけを調査すれば、結果は大きく変わる可能性があります。
おそらく最も重要なのは、英国ガイドライン機関であるNICE(National Institute for Health and Care Excellence)が発行した非ST上昇型心筋梗塞の管理に関するガイドラインではなく、なぜ欧州心臓学会のガイドラインと比較したのかということが不明だということです。それが原因でわずかに結果が異なっているかもしれません。
ガイドライン―心臓発作の管理のために推奨されるケアは、通常、質の高い研究によって根拠付けられています。病院への信頼や病気の重症度にかかわらず、すべての人々が最高のケアを受けることが重要です。