親の訓練は、重度の自閉症児に有益である可能性がある

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自閉症児の治療について

「新しい治療法が、自閉症児の症状や行動を改善することが初めて見つかった」とThe Guardianが報道しています。

新しい治療法は、重度の自閉症児の早期治療の効果が検討されました。この治療プログラムは、主に両親に焦点を当てることを目的としていました。両親は子どもからのコミュニケーションサインをキャッチするための訓練を受けています。自閉症の子どもからのコミュニケーションサインは、ほかの子どもよりかなり捉えづらいものであることが多いです。例えば、頭のほんの少し動かす動きには、子どもが話したいというサインである可能性があります。

親が十分な訓練を受けると、子どもに外部で提供される一回限りのセラピーではなく、24時間のセラピーを提供することができます。

このプログラム(PACTとして知られている、自閉症児のために親が関わる社会コミュニケーション療法)は、速くに将来性があることがわかりました。コースを受講した両親の子どもたちは、1年後のコミュニケーションや反復行動といった症状に改善がみられました。この研究では、治療の効果が続いているかどうかを確かめるため、治療を終えてから5~6年後に再び子どもを検査しました。

PACT群の子どもは、通常のケアを受けていた者と比べて自閉症の症状スコアが平均して低かったのです。ただ、その差は小さかったので、たまたまそうなってしまった(統計的に有意ではない)可能性があります。それは治療がうまくいかないことを意味するわけではありませんが、PACTプログラムは今や、より多くの自閉症の影響がある家族を対象にして実験されるべきものであることは間違いありません。

この説はどこから来たのか?

この研究は、ロンドンのキングス・カレッジ、ニューキャッスル大学、マンチェスター大学、ガイズ大学、セントトーマス大学NHSトラストの研究者によって行われました。

この研究は、査読済みのThe Lancet誌に公開されており、オンラインで自由に読むことができます。

イギリスのメディア報道のほとんどは熱狂的でした。しかし、興ざめのようになるリスクを犯して、メディア関係者の誰も、この研究の主な結果は統計的に有意ではないことに言及しなかったのです。

多くは、独立した専門家からの有益なフィードバックと解説を取り入れる努力をしました。たとえば、慈善団体であるAutisticaの科学ディレクターのJames Cusack博士は、幅広く引用した後、次のように発言しています。「あまりにも頻繁に、親は絶望的な気持ちを抱く家族を食い物にする偽医者からの誤った発言の被害者になることがあります。これらの結果は、確かな証拠に裏付けられた科学に基づいて子どもの早期治療を見つけてほしい、と願う多くの親にとって有望です」

どんな研究だったのか?

これは、ランダム化比較試験の長期にわたる追跡調査でした。これらのタイプの研究は、通常、治療の効果を評価するのに良い方法です。

研究に含まれていたのは?

研究者は、自閉症児の両親を無作為に2つのグループに分けました。一方のグループ(75名)は通常の治療を受けたのに対し、もう一方のグループ(77人)は、親がコミュニケーションの機会を見抜けるよう、遊んでいる場面のビデオを使って子どもとうまく会話するための訓練を受けました。

PACTと呼ばれるプログラムは1年間続きました。

5~6年後、研究者は家族に再度連絡を取り、自閉症の子どもたちに自閉症上に関する事後テストを受けるように依頼しました。

研究者らは、通常のケアを受けていたグループの結果と、PACTを受けたグループのものとを比較しました。

PACTの訓練では、親は子どもが発する手がかりが何かを見つけるために訓練をうけました。この手がかりは子どもが親と関わり、適切に反応したいときに現れる、とても微妙な手がかりで、子どもが社会的な交流や言語を学ぶのを助けることを目的にしたものです。

彼らは6カ月間かけて12時間のコーチングセッションを12回受けた後、さらに6回のサポートセッションを6カ月にわたって受けました。

多くの自閉症の治療法とは異なり、セラピストは子どもたちと直接ではなく両親と関わりました。その目的は、子どもの家庭環境を変えることによって、長期的な改善を生み出すことでした。

この研究を始めたあと、子どもは2歳~4歳11カ月までの年齢でした。追跡期間の平均年齢は10歳6カ月でした。子どもがどの治療グループにいたかを知らない研究者によって、主な結果のフォローアップ評価が行われました。また、研究者は両親に子どもの症状や行動について質問しました。

彼らはさまざまな方法でデータを分析しましたが、主な結果は自閉症症状の重症度のスコアに変化があったことでした。研究者たちは研究開始時、12カ月の治療期間後、そして追跡調査時に子どものスコアを調べたのです。

基本的な結果は?

元の研究では、PACT群の子どもは、通常の治療を受けていた子どもと比較して、治療後の症状スコアにより大きな改善を示しました。

追跡調査時に、両群の子どもは研究直後よりも悪化していました。グループ間には依然として相違がありましたが、もはや統計的に有意ではありませんでした。

つまり、治療から5年後、PACTが通常の治療よりも平均的な症状のスコアを改善するかどうかはわからないのです。

平均スコア(1~10、重度であるほど数値が高い)は、以下のとおりです。

研究開始時 PACTは8.0/通常治療は7.9
研究終了直後 PACTは6.7/通常治療は7.3
追跡調査時 PACTは7.3/通常治療は7.8

PACT群の子どもは、通常の治療を受けた子どもより、追跡調査時に重度の症状スコアが小さかったのです(PACT群は46%、通常治療群は63%)。グループ間の違いがあまりにも小さすぎるので、この結果が単なる偶然の結果ではない、とは言い切れないのです(グループの差17.2%、95%信頼区間[CI] -2.9~37.3)

しかし、調査終了後や追跡調査時とベースライン(治療前)とを比較して総合平均症状スコアを見ると、この結果はPACT治療に有利な統計的に有意なちょうどよい結果になるのです(効果サイズ0.55、95%、CI 0.14 0.91)。

研究者は結果をどのように解釈したのか?

研究者たちは、その結果が「奨励されるもので、早期治療の後、自閉症症状の持続的な変化が可能であるという根拠を提供するもの」であり、これまでに明らかになってこなかった方法であると述べています。

彼らは続けて、「この結果に基づいて、幼児の自閉症の症状を軽減するためにPACT治療を使うことを支援できるようになった」と言っています。

彼らは、この治療法はまだ年長の子どもや自閉症スペクトラム障害を持つ子どもなど、中核となる自閉症の症状を持つ子どもを対象に実験していないことを警告しています。

結論

この研究は、自閉症の子どもを持つ親に必要とされている良いニュースを提供しているように見えますし、専門家や運動家から歓迎されています。しかし、いくつかの結果について統計的有意性を欠いているため、その結果結果が信頼できるかどうかを確かめることができないのです。

統計的有意性は、計算に誤差の幅を持たせ、偶然を許す方法です。したがって、PACTの「真の結果」は6.3~8.3の間であり、通常治療の「真の結果」は6.9〜9.6の間である可能性があります。これらの結果が重複するため、PACT治療がより良いスコアにつながったとは確信できません。

ある専門家は、自閉症症候群の主な結果指標は「変化に鈍感」、つまり、改善を示すベストの方法ではない可能性があることを意味するのではないかと述べました。別の専門家は、この研究におけるPACTの影響は、子どものグループ全体で「劇的ではなく」、「非常に変わりやすい」と述べました。

しかし、ほとんどの研究者は、この結果は特に、ほかの自閉症を治療するための集中的な時間や責任を必要としない治療の場合、有益であると考えているようです。

独立行政法人国立保健医療センターは、自閉症児のために「社会的コミュニケーションの治療」を考慮する必要があると述べているが、特にPACTについては言及していません。

より大規模な親のグループでさらにPACTの実験をすることが、自閉症の有意な改善を示すことが期待されるだろう。

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