妊娠中の胎盤早期剥離―前兆と治療法

胎盤早期剥離について
胎盤は、おなかの中で成長する赤ちゃんに栄養を届けるという働きを持ちますが、まれに、胎盤早期剥離のような合併症が起こることがあります。早期の診断と治療によって、母体と赤ちゃんの両方のリスクを減らすことができます。
妊娠中に膣から出血があった場合、不安になってしまうと思いますが、幸い、多くの場合は心配要りません。しかし、腹痛を伴う膣出血があった場合、胎盤早期剥離の前兆である可能性があります。胎盤早期剥離は深刻な症状ですが、特に早期発見されれば治療が可能な症状です。胎盤早期剥離の症状、診断、治療方法について知っておきましょう。
胎盤早期剥離とは?
胎盤早期剥離とは、胎盤(へその緒を通して、お母さんから赤ちゃんに栄養や酸素を届ける、胎児をサポートするための器官)が早い段階で子宮壁からはがれてしまう現象です。通常は、赤ちゃんが出てきてから胎盤を取り出します。
発生の頻度はどれくらいですか?
胎盤早期剥離は比較的まれな現象です。わずかに剥がれる確率は、150の妊娠に1件です(1%以下)。より深刻な剥離は、800~1600の妊娠に1件の割合でしか起きません。胎盤早期剥離は、妊娠の後半で起こることがほとんどです。妊娠初期、中期、後期のうちだと、妊娠後期で最も頻繁に起きます。
どんな人がリスクにさらされていますか?
胎盤早期剥離は、誰にでも起こりうるものですが、以下に当てはまる女性に起こりやすい傾向にあります。
・多胎妊娠
・以前にも胎盤早期剥離を経験している
・たばこを吸っている人
・妊娠中にアルコールをたくさん飲んでいる
・妊娠性糖尿病、子癇前症、その他の妊娠中の高血圧の症状がある
・血液凝固障害(血栓性素因)がある
・へその緒が短い
・腹部外傷の経験がある(腹部をひどく強打したりおなかを下にして落ちた、あるいは交通事故に遭った)
・35歳以上である
・子宮筋腫がある
・37週以前に早期破水した
前兆や症状はどのようなものですか?
胎盤早期剥離の症状は、どのくらい剥がれているかによりますが、通常は以下のような症状が見られます。
・膣出血(少量から多量まで様々で、塊が出るものと出ないものがある)
・子宮の圧痛
・腰痛
・腹部の痙攣痛
・頻繁に子宮が収縮する
知っておいたほうが良いこと
胎盤が少しだけ剥がれている場合は、素早い治療を施し、細心の注意を払っていれば、通常は母体にも赤ちゃんにもほとんど危険はありません。
一方、胎盤の剥離が深刻な場合は、赤ちゃんへのリスクの方がかなり高くなります。胎盤が子宮壁から完全に剥がれているということは、赤ちゃんに酸素や栄養が行かなくなってしまったということになるからです。
いつ医者に連絡したらいいですか?
特に妊娠の後半において、腹痛を伴う出血がある場合は、直ちに医者に連絡してください。また、おなかを下にして倒れたり、交通事故に遭ったなどの場合も同じです。胎盤早期剥離は、あなたと赤ちゃんを守るために治療することは可能ですが、診断や治療の開始が遅れた場合は、両者にとって危険な場合があります。
診断方法
胎盤早期剥離の診断では、通常、患者の病歴、身体検査、子宮収縮の様子とそれに伴う胎児の反応を確認します。胎盤早期剥離の検査には、以下のようなものがあります。
・超音波検査(腹部あるいは膣内)
・胎児モニタリング
・骨盤内診察
・完全血球算定
・血小板算定
治療法
治療法は、剥離の深刻度に応じて異なります。
わずかな剥離
胎盤が剥がれているけれど、完全に子宮壁から剥がれ落ちておらず、赤ちゃんのバイタルサインも正常の場合、病院で経過観察ののち、状態が悪化せず、出血も収まったら自宅へ帰ることができます。また、ベッドで安静にしたり、活動制限がかかる場合もあります。
出血が続く場合、静脈内輸液の投与が必要になるかもしれません。また、出産が早まってしまう場合に備えて、赤ちゃんの肺の成長を促すため、ステロイドを投与する場合もあります。
深刻な剥離
剥離の状態が深刻な場合、もしくは症状が進行している場合、治療するための唯一の方法は赤ちゃんを出産するということです。深刻な状態のままおなかの中に残しておいてしまうと、胎児に十分な栄養と酸素がいかなくなり、お母さんは深刻な、時には命に関わる血液喪失や分娩後出血を経験することになりかねません。この場合、通常は輸血が必要になります。出産の方法を普通分娩にするか帝王切開にするかどうかは、母体と赤ちゃんの状態に応じて決められます。