妊娠中にビタミンDを摂取すると、ADHDを予防できる?

注意欠陥多動障害(ADHD)について
「母親が日光浴をすると、赤ちゃんが活動過多になるのを防ぐ」というThe Daily Telegraphの報道―これは、不正確で無責任というふたつの疑わしい特徴を持つ見出しです。
このニュースの根拠となっている研究は、決して日光浴について調べたものではありません。日光浴が妊娠中に本当に有害である可能性がある、ということを示しているのです。
デンマークの研究者らは、出生直後に乳児の臍帯血サンプルを採取し、子どもが2、3歳になったときに注意欠陥多動障害(ADHD)に関連する症状の行動チェックリストを完成させるように両親に依頼しました。
研究者は、一般に、臍帯血に含まれるビタミンDが少ないことと、ADHDのスコアの高さとの間に関連性があることを見つけました。
しかし、これはビタミンDの少なさがADHDの症状の直接の原因となることを証明するものではありません。―この研究では考慮されなかった、さまざまな健康、生活習慣、環境要因が存在する可能性があります。
たとえ関連性があったとしても、誰もビタミンDを摂取するために日光浴をする必要はありません。特に、妊娠中の女性はなおさらです。日光浴は皮膚がんのリスクと関連していることは十分に知られています。
妊娠中の女性は、妊娠していないときより皮膚が敏感なので、さらに大きなリスクにさらされる可能性があります。それは脱水やのぼせのリスクがあり、母親と赤ちゃんの両方に有害である可能性があります。
妊娠中の女性と1歳~4歳の子ども(母乳を与えている場合は1歳まで)には、ビタミンDのサプリメント(1日あたり10マイクログラム)をお勧めします。
この説はどこから出ている?
研究は南デンマーク大学の研究者によって行われ、査読済みのオーストラリアとニュージーランドの精神医学雑誌に掲載されました。
この説に関するThe Daily Telegraphの報道は、とてもひどいものでした。私たちは不正確な見出しを見ることに慣れています。あまり一般的ではない、無責任な見出しがあります。しかし、この説のように、両方を見ることはまれです。
さらに、The Daily Telegraphでは研究の限界について議論することも、妊娠中のサプリメントのような、より適切で安全なビタミンDの供給源についてアドバイスもしていないのです。
どんな研究だったのか?
デンマークの人口に基づく出生コホート研究の分析は、臍帯血のビタミンDの量と、後に注意欠陥多動性障害(ADHD)を発症する子どもとの間の関連性を調べることを目的としていました。
ADHDは小児、特に男児ではかなり一般的ですが、原因は明らかになっていません。また、ビタミンD欠乏症が全世界の妊娠中の女性にかなり共通していることがよく知られています。
小児におけるビタミンD不足は、かつてADHDと関連があり、研究者らは妊娠中の母親のビタミンD不足がADHDの原因になるのではないか、という仮説を立てました。
将来のコホート研究は、曝露と結果との間に可能性のある関連性を見るために用いられることが多いものです。
しかし、このアプローチの最大の限界は、混乱する可能性です。言い換えると、低ビタミンD不足に関連する健康、生活習慣、環境要因は、ADHDを有する子どもと独立して関連付けられるもので、直接的な原因ではないのです。
研究には何が含まれていたか?
この調査集団は、2010年から2012年の間にデンマークのオーデンセ地域で2,549人の妊婦を募集したオーデンセ児童コホート(OCC)から引き出されました。
入院時に、女性は臍帯血を寄付するよう求められ、そこからビタミンDの量測定することができました。そして臍帯血を提出した子どもが2~4歳になったとき、両親は子どもの行動チェックリストも記入しました。
このチェックリストは、感情的および行動的症状を測定し、3つの質問項目(0:そう思わない/1:ときどきそう思う/2:かなりそう思う)で答えられる質問を100個掲載していました。
最大スコアが12である6つの質問が、ADHDの症状をカバーしていましたた:
・集中することができない、長時間注意を払うことができない
・じっとできない、落ち着きがない、もしくは動きすぎである
・待つことができない、今すぐすべてを欲しがる
・要求はすぐに満たされなければならない
・あらゆることに没頭する
・ひとつの活動から別の活動にすぐ変わってしまう
この分析では、完全なデータを入手できた1,233人の母親とその子どもたちの臍帯血のビタミンD濃度と、ADHDの関連性を調べました。データを入手できた母親の数は、研究期間中に妊娠していたこの研究の対象となるすべての女性の18%を代表していました。
彼らの分析では、研究者は以下のような多数の潜在的な交絡因子を調整しました:
・母親の年齢
・子どもの性別
・未熟児
・出生時の体重および出生した時期
・母親の喫煙歴、飲酒歴および教育水準
・ビタミンDサプリメントの使用
基本的な結果は何か?
子どもは平均して2.7歳のときに評価され、サンプル全体におけるADHD症状の平均値も2.7でした。
最も高いADHD値(90パーセント以上)は、臍帯血に含まれるビタミンD不足や母親の年齢、教育水準、妊娠中の母親の喫煙や飲酒など、いくつかの要因と関連していました。
ビタミンDカットオフ値で割ったところ、研究者らは、一般的に、臍帯血に含まれるビタミンD値が低いほどADHDの割合が高いことが分かりました。
たとえば、ビタミンDが25nmol / Lを上回る人は、25nmol / Lを下回る人に比べてADHDスコアが低いことがわかりました。
最も高いADHDスコア(90%以上)になる確率は、ビタミンDの量が10nmol / L増加ごとに減少したのです。
研究者はどのように結果を解釈したのか?
研究者らは、次のように結論づけています。
「臍帯血に含まれるビタミンDと、幼児のADHD症状との間に逆相関が認められ、これは出生前のビタミンDの保護作用を示唆している」
結論
このデンマークの出生コホートは、臍帯血中のビタミンD不足と幼児の高ADHDスコアとの関連を見出しました。しかし、これはいくつかの注意を払って解釈されるべきです。
この観察研究は、妊娠中のビタミンD不足が子どものADHD症状の直接的かつ独立した要因になっていることを証明していません。
研究者はさまざまな潜在的な交絡因子を考慮しようとしましたが、すべての交絡因子を十分に説明できなかった可能性があります。また、この研究では、問題の尺度でADHDスコアとの関連を調べましたが、ADHDの公式の医学所見は得られませんでした。
そして、このサンプルは、研究に参加する資格があった女性のうちの、ほんの一部にすぎません。参加することに同意した母親と参加しなかった者の間に、大きな違いがあるかもしれません。
The Daily Telegraphは、女性が妊娠中に日光浴するべきという、かなり無責任な報道をしています。私たちは確かに日光からビタミンDを得ることはできますが、ほとんどの人は日常生活の中で浴びる日光を通してビタミンDを得ているのであって、日光浴は必要ありません。
日光浴や紫外線を必要以上に浴び続けることは、皮膚がんのリスクと関連することがよく知られています。妊娠中の女性は、皮膚が敏感になっているため、必要以上に紫外線を浴びることによるリスクがさらに高くなる可能性があります。
それは脱水やのぼせのリスクもあるので、母親と赤ちゃんの両方に有害である可能性があります。暑い時期、女性は日差しから身を守り、日焼け止めを塗り、日焼けを避けるべきなのです。
ビタミンDは、赤身、卵黄、油の多い魚といった食品にも含まれています(ただし、妊娠中の女性は油の多い魚の摂取量を抑える必要があります)。
妊娠中の女性と1歳から4歳までの子どもと、母乳で育てている場合は生まれてから1年間は、ビタミンDサプリメント(1日あたり10マイクログラム)を摂取することが勧められています。