アルコールは「7種類の癌の直接的な原因」であるのか

アルコールは癌のリスクを増やす可能性がある
「1日グラス1杯のワインを飲むだけで癌のリスクは上がります。研究によって、お酒を飲みすぎることで少なくとも7つの病気が引き起こされてしまうという驚くべき結果が明らかになっています」とMail Onlineで報告されています。
この情報は、アルコールが癌を引き起こすという証拠の強さを検証するために、さまざまな過去の研究のデータを集めて要約したレビューによって得られたものです。
主要な研究結果は、現存している証拠はアルコール摂取と7箇所(のど、食道、肝臓、結腸、直腸、女性の胸)の癌との繋がりを立証しているというものでした。この繋がりは大量に飲酒をすると最も強くなると言われていますが、この研究では少量あるいは適度の飲酒でも、頻度がどのくらいであるかによっては、癌になる割合を増大させてしまう可能性があるということが示されています。研究では、癌に関しては「安全な」飲酒レベルがあるという証拠はどこにもないということも示されています。
しかし、このレビューでは、著者が自分の利用した研究をどのように特定し、査定したのかについては述べられていないということに気がつくことが重要です。このレビューに関連性のある研究がすべて考慮に入れられているかどうか分からないので、この結論は大部分はこの1人の著者による意見であると考えられるべきでしょう。
いずれにせよ、アルコールと7つの癌との繋がりに関する主要な研究結果は既に広く認識されています。近年では、最新の行政勧告でアルコール摂取に安全なレベルというものはないと述べられており、男性も女性も週に14単位以上のアルコールを定期的に摂取するべきではないと推奨されています。
この説はどこからきたのか
この研究はニュージーランドのオタゴ大学の1人の研究者によって行われました。外部からの資金提供は報告されていません。
研究は査読済み科学雑誌であるAddictionに掲載されました。これはオープンアクセス形式のものなので、オンライン上で無料で読むことができます。
この項目に関するメディアの報道は大体が正確なものですが、報道の風潮としてはこれを新しい発見であると示す傾向にあります。アルコールと特定の癌の種類との繋がりは既に十分に浸透しているのです。
どのような研究だったのか
これは公表されている生物学的、疫学的研究、そしてデータを統合し分析したメタアナリシスからのデータを要約し、アルコールが癌を引き起こすという証拠の強さを査定することを目的としたレビューでした。
飲酒は少しの間潜在的な発がん物質であるとみなされてきましたが、癌との関連性を発見した観察研究にはその妥当性が懸念されているものも未だに存在し、また正確にどのアルコールが癌を引き起こすのかについてはまだ不確かです。
システマティック・レビューは、特定の項目に関する領域から入手可能な研究を集め、要約する最善の方法です。しかし、今回の場合、正確な方法は紙面上で説明されていないため、この方法がシステマティック・レビューであったと断言することはできません。関連のある研究が行われていなかった可能性もあり、研究題材に関してこの批評を通して得ることのできる情報は不完全なものである可能性もあります。
研究にはどのようなことが含まれていたのか
このレビューの著者は、過去10年間で世界癌研究基金やアメリカ癌研究協会、国際癌研究機関などの多くの機関によって行われた生物学・疫学的研究やメタアナリシスを利用していると報告しています。
疫学研究の大部分はコホート研究や観察研究に由来していると考えられます。
研究は説話形式で論評、要約されました。この形式の中では、アルコールが癌を引き起こすという証拠を詳しく調査し、この証拠をアルコール消費が循環器系疾患を何らかの形で予防する可能性があるという考えと比較していました。
何らかの方法論が提供されているわけではなく、著者は研究の特定方法を指定していません。例えば、検索を行った文献データベース、調査を行った日、調査の期間、研究の包括または除外範囲の基準、研究の質がどのように評価されたかについての説明などは行われていません。
基礎的な結果はどのようなものだったのか
この研究からはいくつか発見できたことがありましたが、主要なもののひとつは、現存している証拠はアルコール消費と7ヵ所(口腔咽頭、喉頭、食道、肝臓、結腸、直腸、女性の胸部)の癌との繋がりを立証しているということです。
繋がりに強さは癌の場所によって異なりました。口、喉、食道に関しては最も強く、レビューでは1日に50g以上のアルコールを飲む人は飲酒しない人と比べるとこれらの種類の癌に4~7倍かかりやすいと述べられていました。著者が述べているように、アルコール摂取と喫煙との相互作用もこれらの癌のリスクを高めることになると考えられています。
結腸や直腸、肝臓、乳がんに関しての繋がりは比較的弱いものでした。レビューでは、1日に50g以上のアルコールを飲む人は飲酒しない人とくらべるとこれらの種類の癌に1.5倍かかりやすいと述べられていました。
これらすべての繋がりに関しては用量反応関係があり、消費が増えると癌のリスクも高くなります。この関係はどのような種類のアルコール飲料にも存在しています。大酒飲みである人は最もリスクが高くなります。リスクの度合いはアルコール消費を止めるとそのうち低くなっていくという提唱もあります。
近年の大きな研究では、低度~中程度の飲酒がすべての癌のリスクに関して大きな影響を与えるかどうかに関する証拠は不確かなものであるということが分かりました。しかし、大抵の人がこの程度の飲酒をしているということを考慮に入れた上で、著者はこのことが多くの事例の一因となっている可能性があると考えています。
さらに、何がアルコール消費の有害なレベルを構成しているのかという明確な規準はないと言われており、そのため癌に関して言えば安全な飲酒レベルというものはありません。
著者は、過去の研究で発見されたアルコール消費と循環器系疾患の防護効果は、交絡因子によって引き起こされたものであるかもしれないということも示唆しています。例えば、この現象は以前は酒飲みだった人や禁酒家などを誤分類したことにより引き起こされた潜在的な偏りのせいで起こっている可能性があるのです。
研究では、2012年にはおよそ50万人の人々がアルコールが起因している癌で亡くなり、世界規模では癌による死の5.8%がアルコールに起因したものであると推定されています。このことは重大な公共衛生上の負担になっていると考えられています。
研究者たちは結果をどのように解釈したのか
著者はこう結論づけています。
「アルコールが7ヵ所、そして恐らくその他の場所の癌を引き起こすという強い証拠はあります。観測された繋がりによって、生物学的にもっともらしい勾配効果が示され、また消費が止まった際に、喉頭、咽頭、肝臓癌のリスクが逆に低くなるという証拠もあります。」
「大酒飲みの人は最もリスクが高いですが、飲酒は広く浸透しているため、低度~中程度の飲酒でもかなりの負荷を経験することになります。」
結論
このナラティブ・レビューは、アルコールが癌を引き起こすという証拠の強さについて議論するために、公表されている生物学・疫学的研究のデータを要約することを目的としていました。
著者は主要な発見をアルコール消費と7ヵ所の癌との繋がりとして述べ、飲酒量が多い人に最も高いリスクがあると考えられるとも述べました。しかし、「安全な」飲酒量の規準は存在せず、低度~中程度のアルコール消費でもかなりの数の癌の一因となるということも述べられています。
このレビューの最大の制限は、これがシステマティック・レビューであるように見えないということです。著者は自分の行った研究・評価方法をまったく述べていません。多くの大規模な研究やレビューを参照しているにも関わらず、この研究とその結論は、大部分が証拠を評価した著者の意見であると考えられます。
レビューが研究に関連したすべての研究を考慮にいれており、このレビューによってアルコール消費に関連した癌のリスクを確実に数値で表すことが可能であるかどうかは分かりません。
注意しておくべきさらなる制限としては、このデータは主に観察研究から引用されているものであるということがあります。観察研究では原因と影響を証明することはできません。アルコールとの関係性を調べる際に追加で考慮に入れるような健康要因、生活習慣要因によっては、個々の研究の結果がかなり変わってくるでしょう。例えば、喫煙、ダイエット、身体活動は、すべてアルコール消費の度合いにも癌のリスクにも関係があると考えられます。
著者が特に強調しているのうに、交絡因子によってアルコール消費と循環器系疾患との防護効果が観察された可能性もあります。
別の制限としては、分析された研究ではアルコール消費は自己報告制のものである可能性があり、正確さに欠けたり、誤分類に繋がるかもしれないということがあります。例えば、著者が述べている潜在的偏りは、以前は酒飲みであった人を禁酒家ろして分類してしまうということです。
著者はこれらの観察に基づく発見による制限を考慮に入れた上でこう述べています。「コホート研究の制限とは、本当の効果が現在測定されたものよりもいくぶん弱くあるいは強くなる可能性があるということを意味しますが、質的な違いを引き起こすことはないと考えられます。」
しかし、このレビューには方法論的制限があるにも関わらず、この項目に関する現在の見解を立証しています。キャンサー・リサーチUKも、アルコールがこれら7つの癌のリスクを高める可能性があり、「安全な」アルコール摂取量の規準は存在しないと報告しています。
癌に関して言えば、飲酒することへの安全限度を設けることはできませんが、現在のアルコール摂取勧告に従うことが進められています。その勧告とは、週に14単位以上の飲酒はせず、週に14単位以上飲酒をする場合には3日以上にわたってその量を摂取するようにというものです。