子守をする祖父母は「長生きする傾向にある」のか?

子守をすることでのメリット
他人の世話をすることで、身体的、精神的な健康を改善することができます。子守をすることで長期の利益がもたらされるかもしれません。
「孫の子守をする祖父母は他人の世話をしない高齢者よりも長生きする傾向にある」とMail Onlineは報告しています。
研究者たちは、子守をしている祖父母は同じ年齢で子守をしていない人に比べて死亡リスクが37%低いということを発見しました。研究対象には、Berlin Aging Study(BASE)という旧西ベルリンの地域内に住んでいる70歳以上の人々のデータベースから選ばれた500人ほどの高齢者が含まれています。
研究によって、孫の世話をしていたり援助をしていたりする参加者はみな、そのようなことをしていない人よりも研究が行われている間の死亡リスクが低かったということが明らかになりました。自分たちの社会的ネットワークの中で成人した子どもやそのほかの人の支援をしている参加者にも同じようなプラスの影響が見られました。
しかし、研究には限界があり、この研究で示された主要なものは、その原因と影響を証明することができません。
世話をしている人の寿命がより長くなることの原因は何かを明らかにするためにはさらなる研究が必要とされています。研究者たちは、孫と過ごすことは高齢者に目的意識を与えるよい方法であり、身体的にも精神的にも活発な状態を保つことができるなどの数々の説明をしています。
どこからこの説はやってきたのか
この研究はバーゼル大学、西オーストラリア大学、ベルリンのMax Planck Institute for Human Developmentからの研究者たちによって行われました。資金はマックス・プランク研究所、ベルリン自由大学、ドイツ連邦教育科学研究技術省、ドイツ連邦家族・高齢者・女性・青少年省、ベルリン・ブランデンブルク科学アカデミーの高齢化・社会発展研究グループによって提供されました。
研究は査読済み医学雑誌であるEvolution and Human Behaviorに掲載されました。
研究は、発見したことに対して研究チームから示唆された数々の考えられる説明とともにMail Onlineで正確に報告されました。しかし、ウェブサイトでは研究の限界については何も説明されていませんでした。
どのような研究だったのか
この研究は、家庭内、あるいは家庭外で祖父母が人の世話をすることが寿命を延ばすことと関係があるのかを調べることを目的とした前向きコホート研究でした。
多くの研究で、祖父母になることは個人の健康に利益をもたらし、認知機能や健康状態によい影響を与える可能性があるということが示されています。しかし、他の研究では、特に祖父母が常に子どもの世話をしている場合、健康に悪い影響を与える可能性もあるということが明らかになりました。
この研究は祖父母になることの影響を、特に死亡率という点を調べることによって調査することを目的としていました。研究者は考えられる交絡因子を制御しようと試みましたが、彼らが考慮に入れていないさらなる要素が存在する可能性があるため、この研究が完全に正確なものになることはあり得ません。また、データは2年ごとに面談によって収集されたため、想起バイアスが起こってしまう可能性もあります。
研究にはどのようなことが含まれていたのか
研究者たちはBASEからのデータを調べました。彼らは、参加者から得たさまざまな健康状態や社会的情勢に関する情報と自分たちの子どもや孫に関して述べてもらった情報を使って、世話をすることが死亡率に及ぼす影響について調べることを目的としていました。
BASEのデータベース内の人々は西ベルリン登記所の記録から無作為に選ばれました。参加者は面談と自宅・診療所・病院での医学的検査をすべて行いました。これは1990年~2009年の間、2年ごとの間隔を空けて繰り返されました。
参加者は自分たちが過去12ヶ月でどのくらいの頻度で人の世話をしていたか尋ねられました。世話をするというのは、両親のいないところで孫の面倒を見る、あるいは孫と何かをすることであると定義されていました。そして、1(まったく世話をしない)から7(毎日世話をする)までの7段階で点数づけを行いました。孫がおらず、祖父母でない人々は「まったく世話をしない」という位置づけになります。被験者の中には常に孫の面倒を見ているという、孫の主要な保護者である人々は含まれていませんでした。
面談の後に亡くなってしまった場合はその日時が記録され、死亡率の尺度として使われました。
世話をしている祖父母としていない祖父母、そして孫がいない人々の寿命を比較するために統計的分析が行われました。この分析は、身体的健康、年齢、社会経済地位、そして子どもや孫のさまざまな特徴を照合することで行われました。
基礎的な結果はどのようなものだったのか
516人の参加者は以下のように分類されました。
・世話をしている祖父母(80人)
・世話をしていない祖父母(232人)
・孫がいない人(204人)
交絡因子の調整が行われた後、世話をしている祖父母は世話をしていない祖父母に比べて死亡リスクが37%低いということが明らかになりました。世話をしている祖父母と孫がいない人を比べた場合にも、死亡率のリスクはまったく同じ37%でした。世話をしていない祖父母と孫のいない人の間には死亡リスクの違いはありませんでした。
孫がいない人を特に調べてみると、自分たちの成人した子どもを支援している人は、子どもに対して何も援助をしていない人と比べて死亡リスクが57%低くなっていました。
子どものいない参加者へのインタビューでは、他人の支援をしていると答えた人は何も支援をしていないと答えた人よりも死亡りうsくが60パーセント低くなっていました。
研究者たちはこの結果をどのように解釈したのか
研究者の結論は以下のようなものです。
「世話をしているグループ―孫の面倒を見ている祖父母、成人した子どもの援助をしている両親、子どもはいないが社会的ネットワーク内で他の人の手助けをしている人―は世話をしていないグループよりも残存確率は高くなっていました。このパターンは、援助をすることと健康へ利益をもたらす影響との繋がりだけでなく、援助をすることと死亡率との繋がり、そして特に祖父母が世話をすることと死亡率との繋がりがあるということを示しています」
結論
この前向きコホート研究は、家庭内あるいは家庭外で祖父母が世話をすることが寿命を延ばすことに関連性を持っているのかを調べることを目標としていました。
研究者たちは、孫の世話をしていたり、成人した子どもを援助していたり、社会的ネットワーク内で他人の手助けをしている参加者はみな、支援を行っていない人よりも追跡調査期間中の死亡リスクが低くなっているということを発見しました。
しかしながら、研究には以下のようないくつかの限界がありました。
・観察調査では原因と影響を明らかにすることはできません。これらの結果から世話をすることが直接的に寿命を延ばすことに繋がるということを断言することはできないのです。
・研究者たちは結果に影響を及ぼす可能性がある多くの健康的、社会人口統計的要素を調整しようとしましたが、影響を及ぼす可能性のあるような可変のものの数は潜在的に莫大なものです。すべての要因を考慮に入れることで発見したものが変わってしまう可能性があります。
・死亡の原因と参加者の身体的、精神的健康はそれほど深く調査されていません。
・データは2年ごとの面談によって集められ、参加者は自分がどのくらい世話をしていたかについて正確に覚えていないかもしれないので、想起バイアスが起こる可能性があります。
・この研究では比較的少ない人々のサンプルを用いており、また被験者はみなドイツの一地域の人々です。被験者が変われば異なる結果を得ることになるかもしれません。
この研究では、世話をすることと寿命の延びとの関係性を明らかにする証拠が示されましたが、寿命の延びを引き起こすものが何であるかを特定することはできていません。このことを立証するためにはさらなる研究が必要でしょう。
しかし、孫と一緒に過ごし友人や家族を手助けするということは間違いなく人々に目的意識を与えるでしょうし、これによって身体的にも精神的にも活発であり続けることができるでしょう。他人を手助けする方法はたくさんあるのです。