「月経前症候群(PMS)を引き起こす遺伝子」の発見について

月経前不快気分障害(PMDD)とは
月経前不快気分障害(PMDD)は、抗うつ剤の服用を必要とするくらい深刻なものになることがあります。20人に1人の女性がPMDDを抱えていると推定されています。
イギリスの日刊紙であるThe Sunによれば、「月経前の深刻な気分変動に苦しんでいる女性は異なる遺伝子組成を持つ人たちである」ということです。
最新の研究では、ESC/E(Z)と呼ばれる遺伝子複合体とPMDDとして知られる深刻な月経前症候群の症状との繋がりが明らかになりました。
妊娠可能年齢になった女性のほとんど全員が、なんらかの月経前症候群(PMSやPMTと呼ばれる)を抱えています。しかし、PMDDは20人に1人の女性にしか影響することがなく、そしてその症状(憂鬱さや極度の不安感など)は日々の生活を送ることも困難になるほど深刻なものになり得るのです。
科学者たちは、PMDDを抱えている女性の細胞は、エストロゲンやプロゲステロンというホルモンに対して、他の女性の細胞とは異なった反応をするということを発見しました。
彼らは、細胞がこれらのホルモンに触れた前と後で、細胞内に発現する遺伝子の中にある違いを特定しました。
研究者たちはESC/E(Z)と呼ばれる特定の遺伝子の集団が関係していると述べていますが、これがどのようにPMDDの症状に影響しているのかについては正確には分かっていません。
科学者が細胞レベルでPMDDを抱えている女性と抱えていない女性の違いを明らかにしたのはこれが初めてであると言われています。このことは、症状が遺伝に基づいたものである可能性があるということを示唆しています。しかし、研究者たちは、これらの発見の生物学上の関連性については注視する必要があると強調しています。ホルモン応答性を的とした治療法はさまざまな副作用を引き起こす可能性があります。
ではこの記事のタイトルにある質問に対する現実的な答えは何でしょうか?それは「治療はおそらく前途遼遠である」ということです。
PMSに対する助けを求めるべき時
PMDDの症状はPMSのものと似ていますが、PMDDの方がより過度のものであり、より精神的なものである場合もあります。
症状としては次のようなものが挙げられます。
・絶望感
・悲しみや憂鬱さの持続
・極度の怒りや不安
・通常よりも寝過ぎる、または寝られない
・極度の緊張や苛立ち
月経前に定期的にこれらの症状のいずれかを経験している場合は、医師の診察を受けましょう。治療の選択肢にはさまざまな種類があります。
この説はどこからやってきたのか
アメリカ国立衛生研究所(NIH)からの資金提供を受け、NIHとノースカロライナ大学からの研究者たちによって研究が行われました。この研究は査読済み科学雑誌であるMolecular Psychiatryに掲載されました。
この話は複雑なものですが、よりよく話の内容を処理している媒体源もあります。インデペンデント紙には分かりやすい概観が載っています。
デイリー・テレグラフとデイリー・メールは、PMSの深刻な状態であるPMDDと、月経前緊張(PMT)という古い用語を混同しており、両紙ともに科学者がなぜPMTになる女性がいるのかということに対する理由を発見したと述べています。両紙はこの発見の重要性について誇張して書いてもいますが、研究者たち自身はこの発見が真実であると立証され、さらに研究を行う必要があると述べています。
どのような研究だったのか
研究者たちは、PMDDと診断された女性とそうでない女性がどのようにホルモンに反応するのかということを特定するために症例対象研究を行うことから始めました。その後、白血球を培養するために女性から血液を採取し、ホルモンに触れる前後での遺伝的配列を決定しました。
症例対象研究では、集団内(今回の場合は女性)での相違点を特定することができますが、その原因を説明することはできません。細胞に関する実験ではさらなる研究のための興味深い手段を明らかにできますが、それだけでは細胞が全体としてどのように身体と相互作用しているのかということは明らかにしてくれません。研究者たちは血液細胞を使用しましたが、脳の細胞や神経系などが同じように反応するかについては分かりません。
研究にはどのようなことが含まれていたのか
研究者たちはPMDDを抱えた女性34人と抱えていない女性33人を募集しました。
各グループから数名(PMDDの女性10人とそうでない女性9人)が6ヶ月間の研究に参加しました。この研究では女性たちは性ホルモン阻害薬(性ホルモンの影響を減らす薬)を投与され、彼女たちの気分にどのように影響するかを観察されました。その後、阻害薬の投与は中止されました。
この研究によって、問題となっている性ホルモン―エストロゲンとプロゲステロン―はPMDDを抱えていない女性に対してはほとんど影響することがないものの、PMDDを抱えている女性の症状に対しては大きな影響があるということが立証されました。
その後、研究者たちはすべての女性から血液サンプルを採取して白血球を培養し、RNAシーケンシングを用いて細胞がどのようにホルモンに反応するのかを観察しました。彼らはまず、白血球がエストロゲンとプロゲステロンに反応するために必要な性受容体遺伝子を発現したかどうか調べました。それから、遺伝子中のmRNAの配列を決定し、PMDDのある女性のものとない女性のものとの違いを調べました。mRNAは細胞核のDNAを細胞に伝えるもので、ここでタンパク質が形成されます。彼らはエストロゲンとプロゲステロンに触れた細胞のシーケンシングを24時間に渡って繰り返しました。
研究者たちはそれから、ESC/E(Z)遺伝子複合体の中にある違いについて焦点を当てました。以前の研究でこの複合体がホルモンに関連した気分障害の一因となっているということが明らかになっていたためです。彼らはどの遺伝子が現れているあるいは消えているのか、PMDDのある女性とない女性の細胞ではこれがどのように異なっているのか、そしてタンパク質の形成にどのような影響を与えているのかについて調べました。
基礎的な結果は何だったのか
研究者たちが発見したことは以下の通りです。
・PMDDを抱えている女性はホルモン阻害薬を服用している間は症状が改善したが、エストロゲンやプロゲステロンを投与されたときには症状は下に戻った
・PMDDを抱えている女性の細胞内ではより多くのESC/E(Z)複合体の遺伝子が「現れ」たが、遺伝子はタンパク質の形成を促すとはあまり考えられなかった
・研究者が細胞にエストロゲンやプロゲステロンを加えたとき、PMDDを抱えた女性の細胞内には現れ、PMDDでない女性の細胞内では消えた遺伝子もあり、また逆のことも起こった
研究者たちは結果をどのように解釈したのか
研究者たちは、「私たちが見つけた細胞の違いはPMDDへのかかりやすさに関する重要な構成要素を捉えているとは思います」と述べましたが、血液細胞内には見られない「多くの重要な要素」神経系に存在しているということも警告しています。
彼らは自分たちの発見の「生物学的関連性」は、さらなる研究によってPMDDにおけるESC/E(Z)複合体遺伝子の役割がよりはっきりと示されるまでは、「慎重に解明されるべきである」と述べています。
結論
PMDDは生活を極度に困難なものにしてしまいます。ホルモン治療や抗うつ剤が効く女性もいますが、妊娠しようとしている場合にはホルモン治療を行うことはできませんし、副作用もあるためすべての人に適しているとは言えません。病気についてよく知ることがPMDDを理解する最初の一歩になり、長い目で見ればよりよい治療へと繋がっていくかもしれません。
この早期段階の研究では、遺伝子組成とホルモンに対する細胞応答が女性のPMDDの起こりやすさに関与しているということが明らかになっています。しかし、これらの細胞応答が実際にPMDDの原因となっているのかについて確実に理解するためには、まだまだ時間がかかるのです。
研究者によって明らかになった相違点は逆の因果関係の結果であるかもしれないという可能性があります。言い換えれば、他の何かしらの要因ではなく、長期的な気分障害を患っているということがが、細胞のホルモンへの応答の仕方を形成しているということです。
この研究におけるグループは、PMDDの女性の4人に1人に発生した大鬱病エピソードには既住歴の点では一致しませんでした。そして、これはランダム化比較試験ではなかったため、観察された違いの原因となった可能性のある2つのグループ間での測定されていないその他の違いもあるかもしれません。研究者たちはPMDDの女性をほんの数人調べただけなので、この研究が苛立ちや乳房の圧痛、気分変動やむくみなどといったより一般的なPMSと関係があるかどうかは分かりません。
研究者たちは、このような発見がPMSにも当てはまると示唆することはほんの憶測にすぎないだろうと述べています。
日々の生活を困難にするような月経前の症状がある場合は、医師の診察を受けましょう。治療法はたくさんあります。