大人の尿路感染症(UTI)とは~原因、治療~

尿路感染症(UTI)とは?
尿路感染症とは、その名の通り、尿路で起きる感染症のことです。原因となるのは、顕微鏡で見なければ見えない有機体である、菌類、ウイルス、細菌などです。細菌が、尿路感染症の最も一般的な原因と言われています。通常、尿路に侵入する細菌は、症状が起きる前に体の外へ素早く排出されます。しかし、細菌が身体の自然免疫能に打ち勝ってしまうことが時々あり、そのときに感染症となってしまうのです。尿道で起こる感染症は、尿道炎と呼ばれます。膀胱で起こる感染症は、膀胱炎と呼ばれます。また、細菌が尿道を通って腎臓が感染してしまうこともあります。腎臓で起こる感染症は、腎盂腎炎と呼ばれます。
尿路とは?
尿路は、身体の排水機能を持ち、老廃物や余分な水分を身体の外へ流す役割があります。尿路は、二つの腎臓、二本の尿管、膀胱、尿道から成ります。腎臓は一対の、豆のような形をした臓器で、それぞれこぶし程の大きさです。肋骨の下に位置しており、脊椎をはさんで両側に一つずつ、背中の真ん中辺りにあります。人間の腎臓は、老廃物や余分な水分を取り除くために、毎分3オンスの血液をろ過しています。人間は一日に1~2リットル近くの尿を排出しており、その尿の内容物が腎臓でろ過されている老廃物や余分な水分なのです。尿は、腎臓から尿管と言う二本の狭い管を通っていきます。尿は、小さな風船のような、膀胱と呼ばれる臓器に溜められ、膀胱の下についている尿道という管を通って排出されます。
膀胱が空になるとき、括約筋と呼ばれる筋肉が緩み、尿道を通って身体の外へ出されます。尿道の穴は、男性はペニスの先に、女性は腟の前側にあります。
尿路感染症の原因
尿路感染症の多くは、腸に生息する細菌が原因で起こります。大腸菌(E.coli)という細菌が尿路感染症のほとんどの原因となります。クラミジアやマイコプラズマと呼ばれる病原菌も、尿道と生殖器系で感染することがありますが、膀胱では感染しません。クラミジアやマイコプラズマが原因の感染症は、セックスによって移されるため、パートナーが治療を受けなければならなくなります。
尿路には、感染症を防ぐためのさまざまな機能が備わっています。尿管と膀胱がつながっている部分は一方通行の弁のような仕組みとなっており、尿が腎臓に逆流しないために弁で流れを調節しています。排尿によって、細菌を身体の外に排出することができます。男性の場合、前立腺が細菌の繁殖を弱めるための分泌物を出します。また、男性でも女性でも、免疫防御によって感染症を防ぐことができます。こうした防御にもかかわらず、感染症が起きることはあります。細菌によっては、尿路の内側に貼り付けるほど強いものもいます。
大人の尿路感染症はどのくらい頻繁に起こるのですか?
尿路感染症は、体内で起こる感染症の中でも二番目に多いと言われています。女性の方が、身体構造上、尿路感染症にかかりやすい傾向にあります。一つの要因としては、女性の尿道の方が男性に比べて短く、細菌が膀胱により早く到達してしまいます。また、女性の尿道の出口は、肛門と腟から近く、細菌に触れやすくなっています。女性の場合、尿路感染症になる確率は、男性に比べて50%以上多いとされています。男性の尿路感染症は女性と比べるとそこまで一般的ではありませんが、発症すると重症化することもあります。
尿路感染症にはどんな人がかかりやすいですか?
すべての人が少しのリスクを抱えていますが、尿路感染症にかかりやすい傾向にある人がいます。脊髄を損傷している場合や、膀胱の周りのその他の神経にダメージを受けている場合は、膀胱を完全に空っぽにすることが難しくなります。そのため、尿の中の細菌が繁殖してしまい、膀胱にとどまってしまうのです。例えば、腎臓結石や前立腺肥大など、尿の流れをせき止めてしまう原因となっているものを抱えている人は、尿路感染症のリスクが高まります。また、糖尿病や自然免疫能に異常のある人も、尿路感染症にかかりやすい傾向にあります。
セックスによって、腸や腟腔の細菌を尿道口に移動させてしまうことがあります。こうした細菌が、尿路で生息できる特殊な細菌だとすると、感染症を防ぐために体外へ排出することがより難しくなります。セックスのあと、女性の尿にはかなりの数の細菌が存在しますが、通常それらは24時間以内に排出されます。しかし、避妊方法によっては尿路感染症のリスクを高めてしまうものがあります。女性によっては、殺精子剤によって肌が刺激を受けてしまい、その周りの組織に細菌が侵入するリスクが高くなってしまいます。ペッサリーを使うと、尿ができるのが遅くなる可能性があり、細菌が繁殖しやすくなってしまいます。コンドームの使用も尿路感染症のリスク上昇と関わっているとされていますが、これはセックス中に腟が傷つく可能性が高まることと関係しているのではないかと考えられています。殺精子剤とペッサリーとコンドームを同時に使えば、感染症のリスクをさらに高めてしまいます。
尿路感染症のもう一つの一般的な要因は、尿道と膀胱に入れられたカテーテル、もしくは管です。カテーテルがあると、尿路から細菌を排出するという身体の機能が阻害されてしまいます。細菌はカテーテルの中や周りを通り、膀胱の中で繁殖できるための場所を見つけます。通常の方法で排尿ができない人や、意識がなかったり、重病の場合に、最低数日間はカテーテルが必要になります。The Infectious Diseases Society of Americaは、尿路感染症のリスクを減らすために、カテーテルの使用期間を最小限に抑えることを推奨しています。
感染症の再発
多くの女性が、頻繁な尿路感染症に苦しんでいます。一度尿路感染症にかかった若い女性農地、20%は再発するといわれています。感染する度に、再発するリスクは高くなってしまいます。中には、一年に3回かそれ以上かかる女性もいます。しかし、その状態が一生続くという女性は非常にまれです。多くの場合、1~2年の期間だけ頻繁に発症し、その後は再発がなくなっていきます。
男性は、女性に比べると尿路感染症そのものを発症する割合は少ないです。しかし、男性も、一度発症すると、再発しやすい傾向にあります。前立腺組織の奥深くに細菌が潜んでいる可能性があるからです。また、糖尿病や、排尿を困難にさせる何らかの異常がある場合、繰り返し発症しやすい傾向にあります。
National Institutes of Healthの研究によると、尿路感染症の再発の背景には、細菌が尿路の裏側の細胞につくということが一つの原因としてあるのではないかと考えられています。National Institutes of Healthによって設立された一つのマウスを使った研究によって、細胞が膀胱の内壁に保護膜を貼ったことが確認されました。人間にも似たようなことが起こるとすると、この発見は、尿路感染症の再発を予防するための新たな治療法の開発につながることになります。別の研究によると、特定の血液型抗原を持つ「非分泌者」の女性は、尿路感染症を再発しやすいといいますが、これは腟と尿道の内側を形成する細胞が細菌がつきやすくなるからではないかと考えられています。非分泌者とは、A型、B型、もしくはAB型の人で、その血液型の体液(膀胱壁に流れる体液など)に通常の抗原を分泌しない特徴があります。
尿路感染症は深刻ですか?
多くの尿路感染症は深刻ではありませんが、中には腎臓の感染症などの深刻な問題に発展してしまうものもあります。慢性の腎感染(再発したり長引くもの)は、腎臓に傷がついたり、腎臓の機能が低下したり、高血圧やその他の異常の原因になってしまうことがあります。急性腎感染(突然感染症に発展するもの)は時に命を脅かすこともあります。特に、敗血症と呼ばれる、細菌が血流に乗ってしまう状態になると、危険です。
尿路感染症の兆候と症状は何ですか?
尿路感染症の症状は、年齢、性別、カテーテルが入っているかどうかによって異なります。若い女性特有の症状として、頻繁かつ突然尿意を催したり、排尿中に膀胱や尿道に焼けるような痛みを覚えるというものがあります。尿の量は少ないことがほとんどです。上の世代になると、性別を問わず疲れやすくなったり、震えが出たり力が弱くなったり、筋肉痛や腹痛があります。尿の状態は、にごっていたり、暗い色をしていたり、血が混ざったような色だったり、腐ったような鼻につく臭いがあることがあります。カテーテルを入れている人の場合、症状としては熱が出るだけで、尿路感染症の他に原因が見つからない熱です。通常、感染が膀胱で起きている場合は熱は出ません。熱が出るということは、感染が腎臓まで到達したということか、前立腺に侵入したということになります。腎感染の他の症状としては、背中や肋骨の下辺りのわき腹の痛み、めまい、嘔吐などがあります。
尿路感染症はどのように治療されますか?
ほとんどの尿路感染症のケースでは、細菌が原因となっており、抗生物質や抗菌剤と呼ばれる、細菌と闘う薬によって治療が行われます。薬の種類と治療の期間は、患者の病歴と、感染の原因となっている細菌の種類によって決まります。患者がアレルギーを持っている場合、特定の抗生物質は使えないことがあります。感受性試験は、終わるのに48時間かかり、感染症の治療にどの抗生物質が最も効果的かを医療従事者が選ぶ際に非常に役に立ちます。最初に処方された抗生物質の効果がなかった場合、治療が長引くことがあります。
健康で尿路に結石などの障害物のない人が尿路感染症を発症した場合、感染症を表現するには「合併症のない」という表現が使われます。尿路感染症を発症する若い女性のほとんどが、この合併症のない尿路感染症で、2~3日の治療で治すことができます。単回投与の場合、効果は弱くなります。期間の長い治療は、副作用が起こることもあり、効果も弱まります。経過観察のための尿検査によって、尿路が感染していないかどうかを確かめることができます。感染が完全に収まる前に症状はなくなることがありますが、完治のためには治療を最後まで行うことが重要です。
合併症を伴う尿路感染症は、妊娠中の女性や臓器移植患者など、身体が弱くなる要因が他にもある人に起きます。また、閉塞性の腎臓結石や、尿道を圧迫する前立腺肥大など、尿路の機能や構造に異常がある場合に、合併症を伴う尿路感染症が起きます。
腎感染の重篤な患者は、自力で水分や必要な薬を飲めるようになるまで、入院しなければならない場合があります。腎感染は、数週間に及ぶ抗生物質による治療が必要になります。大人の腎感染は、治療せずに放置したり、尿路閉塞症を同時に発症すると、まれに腎臓の損傷や腎機能の不具合を引き起こすことがあります。
膀胱炎は、通常、自己制限疾患ですが、抗生物質による治療を行うと、症状が出る期間を大幅に短縮することができます。一般的には、1~2日の治療で症状が和らぎます。腎臓や前立腺の感染症の症状は、もっと長引くことが多いです。水分をたくさん取ったり、排尿の回数を増やすことで、回復速度を速めることができます。必要であれば、痛みをとるための薬も様々な種類あります。背中やお腹に貼るタイプのカイロを貼るのも、効果があることがあります。
繰り返す感染症(女性の場合)
繰り返される尿路感染症に悩む女性には、医療従事者は以下のいずれかの治療を試すことをすすめてくるかもしれません。
・毎日、少量の処方された抗生物質を飲むことを半年かそれ以上続ける
寝る前に飲むと、薬がより長い間膀胱にとどまるため、効果が長続きします。NIHが支援している研究によると、この治療法で深刻な副作用が起こることはないといいます。
・セックスのあとに抗生物質を一錠飲む
・症状が現れたら、2~3日間は抗生物質を飲み続ける
感染症を防ぐために、医療従事者は女性に以下のようなアドバイスをすることがあります。
・毎日たくさんの水を飲む
・尿意を催したときにトイレに行くようにし、なるべく我慢しないようにする
・セックスの後は排尿する
妊娠中の感染
妊娠中は、尿の中の細菌感染は、たとえ症状がなかったとしても、母体にも赤ちゃんにもリスクを引き起こす可能性があります。妊娠中に飲むのは危険な抗生物質もあります。最適な治療法を選ぶ上で、医療従事者は、薬の効果の程度、妊娠の週数、母体の健康状態、胎児への潜在的影響など、あらゆることを考えます。
合併症を伴う感染
尿路閉塞やその他の機能障害に起因する感染症の治療は、その根本にある原因を見つけ、時に手術によってその状態を断ち切るということがほとんどです。根本的な原因となっている状態が治療されないと、腎臓にダメージが加わるリスクがあります。また、より広範囲にわたる細菌から感染症を引き起こすこともあり、時に複数の種類の細菌が同時に感染することもあります。
男性の尿路感染症
男性の尿路感染症の原因は、主に尿路結石や前立腺肥大などの障害物や、医療用カテーテルの使用が挙げられます。感染症を治療するための第一歩は、感染生体と効果的な薬を特定することです。
前立腺感染症(慢性細菌性前立腺炎)は、治るのがより難しくなります。抗生物質が感染した前立腺の組織に効果的に侵入することができない可能性があるからです。このことから、細菌性前立腺炎を発症している男性は、慎重に抗生物質を選んだ上で、長い治療が必要になることが多いです。また、男性の尿路感染症は、急性細菌性前立腺炎に発展することも多く、すぐに治療を始めないと命に関わる場合もあります。
尿路感染症の再発はどのように予防できますか?
日常生活の習慣をいくつか変えることで、尿路感染症の再発は予防することができます。
・水分を取る
水分をたくさん取ることで、細菌が外に流れやすくなります。水が一番おすすめです。1日あたり、一杯8オンスを6~8回飲むことを心がけましょう。腎機能障害のある人は、こんなに水分をとってはいけません。健康に害がないように、医師の指導を受けることが大切です。
・排尿の習慣
頻繁に排尿するように心がけ、尿意を催したらなるべくすぐにトイレに行きましょう。尿が膀胱に長時間とどまると、細菌が繁殖してしまう恐れがあります。セックスの後は、女性も男性もすぐに排尿し、セックス中に尿道に侵入した可能性のある細菌を排出しましょう。コップ一杯の水を飲むことでも、細菌を排出しやすくします。
排便後は、女性は前から後ろに向かって拭くようにしましょう。腸が動いた後に細菌が尿道に侵入するのを防ぐために最も重要な工程です。
・洋服
尿道の周辺の空気を乾燥した状態に保つために、綿製で、身体を締め付けない下着を履くようにしましょう。また、スキニーフィットのジーンズや、ナイロンの下着は、湿気を閉じ込め、細菌が繁殖しやすくなってしまうため、避けましょう。
・避妊方法
女性の場合、ペッサリーや殺精子剤を避妊に使うことで、細菌が増殖し、尿路感染症を引き起こすことがあります。尿路感染症を抱えている女性は、ほかの避妊方法を検討しましょう。無潤滑のコンドームや殺精子剤を含むコンドームは、肌が敏感になって傷つくことで最近を増やす可能性があります。潤滑のコンドームで、殺精子剤を含まないコンドームを使うことで、尿路感染症の予防につながるでしょう。