経験談『IVF(体外受精)の後の養子縁組』
養子を受け入れる
アンドリュー=マクドウガル氏と彼の妻は、IVF(体外受精)を試みましたが上手くいかず、2013年1月、2歳の男の子を養子として引き取りました。アンドリュー氏は、彼らが養子縁組を行う日までの道のりを次のように語り、新たに養子を受け入れる人々へのアドバイスを述べています。
「私達が、自分達が自ら子供を授かるのが困難だと分かってから、養子縁組がいつも話題に上るようになりました。初めはIVFで何とか頑張ろうとしました。理由は単純で、私達の地域では、自由に選ぶことの出来る選択肢は一つしかなかったからです」
「IVFは2009年の9月に始めました。この経験は私達二人ともにとって信じられないほどに大変なものとなりましたが、恐らくより辛かったのは妻のほうでしょう。IVFは、それぞれのパートナー同士がその中で経なければならない処置の観点で、女性側にとって極めて辛いものです。不妊の原因となる問題が私の方にあると理解したときには、もはや妻がIVFの処置を受けているのを見るのがとても辛いものとなりました」
「卵子が受精した後、私達は、問題のない胎芽が4つないしは5つくらいあることを願っていました。私達が授かったのはたった1つで、それも正常な細胞分裂をしていませんでした。つまり、上手くいかなかったのです。これは、私達が夫婦として経験してきた中で最も辛かったことの一つでした。私達二人ともにとって、本当に最悪の事態だったのです」
「それでも、コミュニケーションとお互いの理解が、私達がその困難な状況を乗り越える手助けをしてくれました。妻と私はたくさん話をして、定期的に私達の抱えている気持ちについて話し合いました。考えを共有する中で、私達がお互いに対立する原因となってしてしまうような非難の言葉は一切なく、あったとしても、よりお互いに寄り添えるようになりました」
養子縁組の決断 ― 私達が、決める
「IVFの失敗から2、3ヶ月後、私達は養子縁組を決意しました。この日、ついにこの決定をした時に感じた安堵感を、私は今でも覚えています」
「私達は心から子供を欲しいと思っていましたが、実際に授かることができるかどうかは、もはや私達では決めることの出来ないものとなっていたようでした。養子縁組は私達にとって、その「決められないこと」に対していくらかの可能性を与えてくれるものとして映り、もう一度IVFを試してみるよりも、良い結果がでるチャンスがずっと期待できるものと思われました」
「信じられないことに、物理的に重くのしかかっているように感じられた不安が晴れて消え去ってしまい、新たな人生とやる気が私達二人に吹き込んできたのです。養子縁組には、初めて縁組について問い合わせた2010年から、実際に縁組が成立した2013年まで、3年ほどかかりましたが、当時の私達の状況は他に類を見ないようなもので、私達の養子縁組は通常よりもはるかに速く進んでいると、今は分かっています」
養子縁組の際の健康診断について、私達の場合
「養子縁組のためのアセスメント(査定)の一環として、養子縁組を希望する人は皆、健康アセスメントを受ける必要があります。アセスメントは、基本的に複雑なものでは全くありません。医師から目や耳、口を診てもらい、血圧やBMIといったものの検査を受けます。妻は乳房に関してもチェックを受け、私自身はプライベートゾーンをチェックされることはありませんでしたが、友人夫婦の中には、私達とは反対に、彼はプライベートゾーンの検査を受け、彼の奥さんは特に求められなかった、というケースもあったようです。その人の健康歴によって異なるのだと思います」
「アセスメントは1時間ほど続きましたが、大半は医師が書類を記入して、私達に質問をしてくる時間でした。実際に身体検査が行われたのは10分ほどですね」
養子を親として受け入れるのはどのような感じか
「親として感じる気持ちは、ほとんどは素晴らしいものです。ですが、これはよくあることなのですが、まだよちよち歩きをしている子供が乱暴な振る舞いをしている時だけは、明らかにその気持ちの例外といえるでしょうね。過去にトラウマとなる出来事を経験している子供を養子として育てるには特に、それ相応の困難や気持ちが伴うものなのです」
「私の息子は身体的にとても健康で、今のところ息子から見て取ることができるサインから判断すると、彼は感情面でも精神面でも年齢相応に育っているようで、その点で私達はとても幸運だったんだな、と思います」
「しかしながら、幼少期の経験が引き起こす心理的な障碍は、子供が数年育った後に現れることがある、ということも理解しています。私達の息子の場合、生まれてから本当に早い年齢で彼の実母から引き離されており、生後に経験しうる主要なトラウマは回避しているといえますが、息子が彼の実母から引き離されたという事実が、後に彼が成長した際に問題を引き起こすかもしれません ― 私達は、待って状況を見るしかないのです」
「子供が振舞い方に関して抱える課題についても、様々な疑問があります。気がつくと、なんで息子はこのような行動をとるのか、不思議に思っているのです。自ら授かった子供に対しては、親はほとんどの場合『歯が生え始めてきているのだろうか?それとも彼はいわゆる【恐るべき2歳児】なのだろうか?それとも、単に疲れているのだろうか?』と考えます。私達の場合はそれに加えて、『これはもしかして、彼の過去のトラウマと何か関係があるのだろうか?』と、自問自答してしまう複雑さがあるのです」
「息子が大きくなってくると、養子縁組について彼と話すというより大きなプレッシャーがかかるようになると思います。ですが、これは養子縁組のプロセスの一部なんだと、私達はしっかり意識していますし、この課題に直面した際には、きちんと向き合って対処するつもりでいます」
養子縁組後のサポートについて、私達の場合
「専門的なサポートに関して言えば、私達は地域の担当局からとても良い支援を受けることができています。担当のソーシャル・ワーカーの方が、私達のためにセラプレイ・セッション(子供を持つ親に対し、しっかりとした構造で子供の養育のためになるような子供との遊び方について、例を示してあげることで、親と子供の間の健全な愛着を育むサポートをするもの)をプランニングしてくれましたし、私達や私達の息子を担当するソーシャル・ワーカーの方、また息子を私達が引き取る以前に彼の養育のサポートをしてくれていた方と、コミュニケーションを得ることが出来ましたから」
「電話での相談相手になってくれる一方で、様々な講義に招待してくれました。養子縁組成立の前では、例えばTAPPs(トラウマ・愛着・縁組成立への準備)の講義がありました。とてもよく出来た講義で、セラプレイの概念のほか、養子として受け入れられた子供に潜むトラウマの影響についても説明をしてくれました。講義はすべて、無料で参加することができました」
「友人も家族も、信じられないほどに積極的にサポートをしてくれました。友人や家族は、あなたが暮らす地域で効果的な支援のネットワークを構築するよう、手助けをしてくれますよ。私達も、そのネットワークに助けられています。また、実際に彼ら・彼女らがいてくれるだけでも助けになりますが、私達の場合はそれだけでなく、特定の状況に対してどう対処すれば良いのか、ヒントやアドバイスを求めることも多いです。自分の養子縁組の経験について、友人や家族に相談すること、そして自分の思っていることを打ち明けることが出来る誰かを見つけることは、子供を養子として育てていく上で良いことだと思いますよ」
養子として引き取った息子に対し、私達が実践した養育策
「妻と私は、出来る限り息子と1対1で過ごす、そしてまた家族と一緒に過ごす時間を多く持つよう努めました。例えば、私達がハグをする際にはいつも、息子にもハグに加わるよう誘います。とにかく、お前は家族の一員なんだと、息子を安心させてあげたいのです」
「私達の場合、養子縁組が成立して初めのうちは、セラプレイを多く利用しました。何人かセラプレイの専門家に訪ねてきてもらい、息子との愛着を育むのに役に立つ素晴らしい方法を、いくらか教えていただきました。この利用は、間違いなく私たちの役に立っていると思います」
「セラプレイのほか、もっと一般に用いられてきたような養育戦略も、息子に合わせて利用しています。例えば、いわゆる【ノーティ・ステップ】(子供がいたずらをした際に、罰としてその子供を静かに座らせておくための場所)は用意していませんが、息子が少しの間静かな時間を過ごすことができる場所をキッチンに作っています。その際に、私達二人ともがキッチンを離れることはありません ― 私達のどちらかが、息子の近くに残っていてあげるようにしています」
「息子とたくさんゲームもしますし、たくさん本を読んであげますし、一緒にたくさん遊んであげています。それと同じように、たくさんアイ・コンタクトもしているのです ― 常に、息子とアイ・コンタクトをするように意識しています。これはほとんどの親にとっては自然に行われるもので、毎日の生活の一部として行うものなのだ、とわざわざアイ・コンタクトについて考えるというのは奇妙なことなのですが…それでも、息子を安心させるためには、私達が意識的に努力をする必要があるのです」
養子を育てる他の親たちへ、アンドリュー氏のアドバイス
・子供を養子として正式に受け入れる前には、自分の生活を「保留」したままにしないこと。友人を訪ねたり、休日に出かけたり、子供がいない大人だからこそ出来ることを何でもやって、楽しむこと!
・どのような治療的育児コースを、養子を親として育てる人が利用することのできるのかを確認しておき、自分に適したコースの詳細を得ておくこと。
・出来る限り早い段階で、セラプレイの利用を管轄する機関で働いている人物について、連絡方法の詳細を得ておくこと。
・出来るだけ早く司法的手続きを通じて正式に養子縁組を成立させたい、と思っている人は多くいます。しかしながら、この場合、養子縁組後のサポートの一部が突然終了してしまうようなことも起こり得ます。そのことを頭に入れておいた上で、更なるサポートを受ける必要があると思った場合には、そのサポートは遅れてでも受ける価値のあるものであるということを覚えておくこと。
・もしいるのであれば、あなたが養子として引き取る以前にその子供の養育のサポートをしていた人と連絡を取り合うことで、助けになることもあるでしょう。私達の場合には、以前息子の養育をしていた方ととても良い関係を築けていたと思います ― 彼女から受けたたくさんのアドバイスが、本当に素晴らしく役に立っていますから。
・いつであっても、あなたを担当するソーシャル・ワーカーの人にアドバイスを求めることができる、ということを忘れないこと。彼らはプロフェッショナルであり、養子として育てられることとなった子供の面倒を見ることに関して、彼らには手助けをする義務がありますから。
・もしあなたがたが夫婦関係にあるのであれば、定期的にお互いにコミュニケーションを取り合うこと。私達は困難に立ち向かう際に、これをすることで、大いに助けられたのです。
その他の情報
(以下、イギリスの例であるため省略)