多発性硬化症(MS)の基礎知識~原因、症状~

症状

多発性硬化症(MS)とは何ですか?

多発性硬化症は、神経系に影響を及ぼす自己免疫疾患です。通常、免疫系によって産生される抗体は、ウイルスや細菌から身体を保護しますが、MS患者の場合、免疫系が神経細胞を取り囲んで保護する物質(ミエリン鞘)を破壊します。
一般的に、脳は脊髄を介して信号を迅速に送信し、その後、全ての臓器や身体部分に分岐する神経を介して送信します。しかし、神経周囲のミエリンが損傷・破壊されていると、神経は適切に信号を送れません。これは身体全体に症状を引き起こす可能性があります。

多発性硬化症(MS)の症状は何ですか?

MSは正常な感覚、思考および運動に影響します。症状は、ミエリン鞘が損傷している領域や個人によって異なり、症状は出たり消えたりすることがあります。発作は数日、数週間または数ヵ月続き、 その後しばらく消えるかもしれませんが、瘢痕(ルビ)がその領域の神経を形成し永久に影響を与える可能性があります。一般的な症状は次のとおりです。
物が二重に見える、ぼやけ、部分的な色盲、眼の痛み、片眼が見えにくい(あるいは失明する)など視力の問題
思考と記憶の問題
疲労
筋肉の衰弱、めまい、震え
身体の片側や下側の麻痺または衰弱
バランス感覚の問題
腸や膀胱制御の喪失
しびれ、うずき
頭を特定の方法で動かすと電気ショックのようにしびれる

多発性硬化症はどのような種類がありますか?

最も一般的なMSは、【再発寛解型MS(RRMS)】として知られています。RRMSの症状は、顕著に悪化していき、その後、症状が回復するか、またはしばらくの間完全に消える回復期があります。なお、インフルエンザなどの感染によって症状が引き起こされる可能性があります。RRMSの50%以上は再発があり、続いて疾患が徐々に悪化する二次進行性タイプを発症します。
一方、MS患者の約15〜20%は、【一次進行性MS(PPMS)】です。 PPMSにおいては、回復期がないまま症状が悪化します。
【第4型進行性再発性MS】はまれですが、突然再発し症状が悪化するのが特徴です。軽度ですが、書く、話す、歩く能力を失う人もいます。

多発性硬化症(MS)の原因は何ですか?

MSの原因は明らかになっていませんが、環境、ウイルス、遺伝要因の組み合わせの結果である可能性が最も高いと考えられています。多数の異なるウイルスがMSに関連しており、小児期のウイルスは、後にMSを引き起こす可能性があります。

多発性硬化症(MS)になるのはどんな人ですか?

男性には女性の2倍以上のリスクがあり、家族で遺伝することがあります。MSはあらゆる年齢の人で発症しますが、最も多いのは20~40歳での発症です。甲状腺疾患や1型糖尿病などの自己免疫疾患がある場合、MS発症リスクは少し高くなります。また、「温暖な気候の地域で幼少期を過ごす人はMSのリスクが高い」といった、住んでいる場所による影響を示す研究もあります。

多発性硬化症(MS)があるかどうか、どうすればわかりますか?

MSかどうかを診断できる検査はなく、ほかの自己免疫疾患と同様に診断が難しいかもしれません。
MSの最初の兆候は、ぼやけや物が二重に見えるなど視力に関するものですが、身体のほかの部位にも影響を及ぼします。 よって、病歴の質問や下記の方法でMSかどうかを診断し、同時にほかの原因を排除します。
【血液検査 】
血液は、MSと同様の症状を引き起こすほかの病気の兆候を示す可能性があります。
【神経学的検査】
神経系がどれくらい機能しているか、神経科医により診断することがあります。検査では、眼の動き、筋肉の協調、衰弱、バランス、感覚、発声、反射の変化を調べます。
【脊椎穿刺(腰椎穿刺)】
背骨から採取された少量の液体により、MSに関連する異常な量の血球、タンパク質が発覚することがあります。脊髄穿刺で、ウイルス感染やほかの病気の可能性を除外することもできます。
【磁気共鳴画像(MRI)】
MRIは、脳や脊髄の詳細な画像を表示し、病変を明らかにします。ただし、病変は必ずしもMSによって引き起こされるわけではありません。

多発性硬化症(MS)はどのように治療されますか?

現在、多発性硬化症の治療法はありません。医薬品、物理療法、言語療法、作業療法の組み合わせで症状を緩和し、病気の進行を遅らせ、穏やかに生活できるよう補助していきます。

薬はどのように役立つのですか?

特定のMSの薬は、症状を緩和し、特定の症状の治療に効果がありますが、ほかの医薬品は、この疾患の臨床上の結果に影響を与える可能性があります。
軽度の症状を抱える人の中では、リスクや深刻な副作用の可能性のために特定の医薬品を服用しない人もいます。 MS治療薬の服用のリスクと利点については、医師から説明があります。

MSのどのような症状は治療できますか?

特定の医薬品により、MSの一般的な症状を一部治療できます。
【膀胱の問題】トルテロジン、オキシブチニンを服用します。
【便秘】便軟化剤、下剤を服用します。
【うつ病】ベンラファキシン、パロキセチンを服用します。
【勃起障害】タダラフィル、アルプロスタジルを服用します。
【痛み】フェニトイン、ガバペンチンを服用します。
【筋肉の硬直とけいれん】ダントロレン、バクロフェンを服用します。
【尿の問題】デスモプレシン、メテナミン、フェナゾピリジンを服用します。

ステロイドの処方について

再発中に侵食された神経領域が炎症を起こし、身体の一部に痛みや機能喪失をもたらすことがありますが、ステロイドによって炎症が減少し、早く正常な機能に戻ることができます。MS治療用のステロイドには、プレドニゾン(経口摂取)やメチルプレドニゾロン(注射で投与)が含まれるものがあります。これらは通常、症状を助けるために短期間服用されます。また、ステロイドはMSの経過を改善するわけではありません。

どの医薬品がMSの長期的な治療に有効ですか?

【インターフェロン】
ヒト細胞によって作られる天然タンパク質の群で、MSの症状の悪化を時間の経過とともに遅らせる効果があると考えられています。通常、注射で投与され、MS治療用インターフェロンには、IFNベータ1aやIFNベータ1bが含まれることがあります。インターフェロンは副作用として深刻な肝障害やインフルエンザ様症状、うつ病があります。
【グラチラマーアセテート】
ミエリンに損傷を与え細胞をブロックする薬です。これを服用する人は、再発の回数が少なく、新しい神経細胞の病変が少なくなる傾向があります。1日1回注射で投与します。副作用には、注射部位の蕁麻疹や痛み、心臓の動悸、息切れなどがあります。

MS治療用のほかの薬は何ですか?

ナタリズマブとミトキサントロンは、深刻な多発性硬化症を治療する薬です。
ほかの薬で効果が得られなかった人はナタリズマブを試してみることがありますが、深刻な副作用が出る可能性があるため、ほかの薬と組み合わせて使用すべきではありません。知られている副作用の1つは、致命的な脳感染のリスクの増加です。
ミトキサントロンは、RRMSが悪化しているか進行性MSの人に使用されることがあります。副作用としては、感染に対する耐性の低下、血液や心臓病のリスク増加が挙げられます。

ほかの療法でも治療できますか?

ほかの治療法も、MS患者の一部に有用です。一般的な治療法の例は以下のとおりです。
【理学療法(PT)】
歩行、強さ、バランス、姿勢、疲労や痛みを改善します。 PTには、ストレッチ運動や、杖・スクーター・車椅子などの移動補助装置を使用するトレーニングが含まれます。理学療法士のサポートがあれば、症状に合わせて運動内容を適応可能です。
【作業療法(OT)】
OTの目標は、家庭や職場での自立と安全レベルの向上です。作業療法士の助けがあれば、仕事や生活をよりスムーズにするために、生活空間や作業空間を快適なものへ変えることもできます。また、あなたが趣味に没頭できるよう、サポートしてくれるでしょう。
【言語療法】
MSは、話すときや嚥下するための筋肉の制御に問題を引き起こす可能性があります。言語療法士は、できるだけ明確な会話や安全な嚥下を実践するようサポートしてくれます。
できるだけ健康な状態に保つにはどうすればいいですか?
MSと一緒に生きる場合、生活習慣の変化が必要になることがあります。生活習慣の変化は、あなたの健康維持につながります。以下の方法を参考にしてください。
【栄養】
脂肪が少なく、繊維が多い、また栄養価が高く、バランスの取れた食事をとる。健康的な食事は免疫力を強くし、健康的な生活に近づけます。
【運動】
医師の許可があれば、運動を続けてください。運動は筋力や筋肉の状態、バランスと運動神経の改善に効果的です。ストレッチは、ゆがみ防止や動きやすさにもつながり、気分を上げるのにも有効です。
【休息】
十分な運動だけでなく、十分な休息も重要です。MS患者は疲れやすくなっています。休息のために、仕事や家族のスケジュールを調整してみてください。
【温度】
MS患者の場合、温度が高すぎると極端な筋肉の衰弱につながるため、温泉やサウナ、シャワーでは注意が必要です。冷たい風呂や空調にするのもいいかもしれません。
【サポート】
友人、家族、地域社会、サポートグループ、医師や医療従事者からのサポートを受けてください。周りからの励ましはMSと生きる上で役立ちます。 可能な限り普通の生活を維持し、楽しむことを続けてください。

多発性硬化症(MS)は人生にどのように影響しますか?

慢性的な病気と生きることは、幸福感の妨げとなることがあります。
MSは、仕事、家族、睡眠、食事、運動能力に影響を与え、あなたの気分や精神的健康に影響を及ぼす可能性があります。専門家に相談し、対処法やサポートを得る方法を学んでください。

医師に相談すべき質問

多発性硬化症は家族で遺伝しますか?私には遺伝の可能性がありますか?
MSと診断されています。 再発を予防し、症状が悪化するのを防ぐために何ができますか?
MSかはどうすればわかりますか?
MSの治療法はありますか?治療に役立つ研究は何ですか?
私が服用している薬の副作用にはどのようなものがありますか?
再発していると思われる場合、どうすればいいですか?

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