産後うつ病(PPD)の認識と処置

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産後うつ病(PPD)とは

もし赤ちゃんが生まれてから気分が落ち込んでいても、あなたは1人ではありません。産後うつ病(PPD)は認識はされにくいですが、出産後の多くの女性が経験するよくある状態なのです。気をつけるべき症状やどのように診断され処置されるかをお話しましょう。

はじめに

赤ちゃんを産むというのはお母さんの世界を揺さぶる、人生を変える出来事です。そして妊娠期間を通じ思いを巡らせてきたちっちゃな赤ちゃんとついにめぐり合いどんなに興奮したとしても、ホルモンの急激な変化と乏しい睡眠時間にも対応しなければならないのです。ですから出産のすぐあとに人生の新しい局面に打ちのめされ少なからず忘我状態になってしまうのは驚くにはあたらないのです。そしてこの状態はお母さんがお考えよりもはるかにありふれたもので、新米ママの5~25%に起きているのです。しかし産後うつ病(PPD)はむしろありふれているとは言っても、自分がそうか知り、ご自分と赤ちゃん両方にとって必要な助けを求めるのは時には難しいことなのです。

そうは申しましても、産後うつ病(PPD)はもっとも処置のしやすいうつの1つなのです。ですからもしそれにお母さんがかかったら、長引かせないようにしてください。新米ママなら知っておきたい情報をお伝えします。

産後の気のふさぎとPPD

「産後の気のふさぎ(baby blues)」とPPDは時々同義的に使われますが、2つの独特な症状なのです。

産後の気のふさぎはまったくふつうでたいへんありふれていて、70~80%の新米のお母さんが経験すると推定されています。出産後、女性は涙もろく、いらいらし、疲れ果てて心配になり睡眠に問題をかかえてしまうのです。産後の気のふさぎは産後数日で始まり2、3週間つづきます。

PPDの症状はしばしばこれらの産後の気のふさぎと似ています。そのため、多くの女性が自分の症状を見極めるのに困っているのです。しかし産後の気のふさぎがほんの短期で終わり症状が軽い一方、PPDの症状は産後1年以内のいつでも、産後すぐから、初めての産後の時期、赤ちゃんが離乳する時まで起こりうるのです。そしてその症状ははっきりしていて何週、何ヶ月、もしくは1年あるいはそれ以上続くのです。

PPDの原因

PPDの正確な原因は分かりませんが、産後のホルモンの変化が症状を引き起こすと考えられています。赤ちゃんに打ちのめされると感じたり、睡眠が不足したり、母親たちの現実的でない意見、家庭や職場での習慣の変化にともなうストレス、魅力的でないと感じたり自我の新しい感覚に苦しむなど、ほかの多くの生活の混乱も影響しているかもしれません。

PPDの症状を認識する

産後の気のふさぎかPPDに罹患しているか知ろうとするのは難しいでしょう。なにかがうまくいかないことに気づいているかもしれませんが、それが実際にはPPDだとは考えないかもしれません。ときどき、「うつ」という言葉をきいたら、自分自身を傷つけることを考える人について考えるかもしれません。ですからこれらの感情がないなら、自分はPPDではないと考えるかもしれません。しかしPPDも含め、うつは必ずしも自傷や自殺の考えが必要なわけではないのです。
PPDの症状には以下が含まれます。

泣く
いらいらする
睡眠が邪魔される(眠ることができないか、一日中眠りたい)
摂食障害(まったく食欲がないか、過剰に食べてしまう)
継続的な悲しみ、希望や助けのない感覚
深刻な不安
家事や仕事の問題
いままで楽しんできた活動に興味がなくなる
社会的孤独(社会に参加していなかったり、つながりを感じられない)
無価値だと感じたり、悪い母親だと思う
自分と赤ちゃんの面倒が見られない
赤ちゃんの健康に強迫観念を抱く
赤ちゃんに後ろ向きな感情を抱いたり、興味がなくなる
赤ちゃんとともに孤独であることへの恐怖

たとえご自身にこれらの症状が見られても、うつの症状の1つは自分を疑ってしまうことなのです。ですから感情がストレス、産後の気のふさぎ、PPDか新しく母親になることに起因する単純な疲れに関係することなのか、疑問に思うかもしれません。それに、赤ちゃんが生まれてから幸せを感じないことに罪の意識や恥ずかしさを感じ、それは自分の過ちで誰かに裁かれることになると心配するかもしれませんね。

まずはじめに、PPDはお母さんの責任ではないことを知ってください。それはどんなお母さんにも起こりうる(起こる)し、お母さんがした(あるいはしなかった)何かが原因ではないのです。たいていの人はこれを理解し、批判的というよりは同情的になるのです。

赤ちゃんが取り上げられるのではないかと助けを求めるのを恐れているのですか?それはお医者さんやその他の専門家の方々の目的ではありません。かれらはお母さんの必要としている助けを与えようとしているのであって、お母さんはご自分と赤ちゃんの面倒をちゃんとみることができるのです。

産後うつ病にかかりそう?

いくつかの要因が女性のPPD罹患リスクを高めるようです。しかしたとえお母さんがリスクにつながる要因をいくつか持っていても、絶対にPPDになるというわけではないのです。これらのリスクにつながる要因を持っていない女性の中にもPPDになる人はいるということを覚えておいてください。

・うつ、妊娠期間のうつ、PPD、深刻な月経前症候群、双極性障害、その他の病気になった経験があるか、家族でなった人がいる

・産後1年以内のストレスの多いできごと(病気、失職や赤ちゃんの死など)
・妊娠期間や出産期の合併症
・経済的、人間関係の問題
・社会的支援がほぼ、あるいは全くない
・慢性的に病気の赤ちゃんの世話

PPDの診断

米国予防医療サービス専門作業部会(USPSTF)はすべての妊婦と産後の女性のうつの観察を薦めています。

お医者さんはお母さんが経験したことや感じたことについて質問をし、症状に基づいて診断をします。お医者さんはもしそれらが症状を引き起こしているだろうと考えたら、その他の問題を除外したいので、検査することを提案されるかもしれません(たとえば、甲状腺ホルモンの数値の異常は感情的不安定につながることがあるので甲状腺検査をされるかもしれません)。

なぜ治療をするのか

もし自分がPPDだと思ったら、パートナーとお医者さんに相談するのが大切です。処置をしないままでいると、PPDは数ヶ月、数年続き、赤ちゃんやほかの人との関係にも影響を及ぼすからです。

専門家はPPDの処置をしないと赤ちゃんの言語の遅れ、泣き止まなかったり行動に問題が見られるようになるといいます。そして処置をうけないままのPPDの長期にわたる複雑化はふつうのうつと全く同じです。お母さん自身と赤ちゃんに危険が及んでしまうのです。

これらの理由すべてのために、症状がやむまで待ったり自分で何とかしようとするよりも助けを求めるのがほんとうに重要になるのです。もし数日以上深刻な症状が続き、専門的な注意なしには事態は好転しないので、すぐお医者さんに行ってください。よい報せは、ひとたびPPDと診断されると、たくさんの安全で効果的な処置の選択ができるということです。

PPDの薬

お医者さんがPPDの診断を下したら、時には心理療法とともに症状を軽減しPPDを治療する薬を提案されるかもしれません。(以下により詳しく)

これらの抗うつ剤とよばれる薬は、感情をつかさどる脳の物質のバランスをとるのを助けます。2つのもっとも一般的な選択肢を紹介しましょう。

ゾロフトやパキシルなどの選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRIs)は、ふつう薬としては最初に選ぶものです。
エラヴィルやトフラニールなどの三環系抗うつ薬はもしSSRIsが効かなかったら次に処方される薬です。
ひとたび抗うつ剤を服用し始めたら、気分がよくなったと感じ始めるのには数週間かかります。すべての薬と同様、抗うつ剤は副作用を起こす可能性があります。よくあることではありますが、それらは一時的なもので短時間でなくなってしまいます。

もしおっぱいをあげているのなら、お母さんの関心ごとの1つはこれらの薬がどのように赤ちゃんに働くかでしょう。おっぱいをやっているときも使うことができるものもありますが、できないものもあります。ですから赤ちゃんへの副作用がほぼない抗うつ剤をみつけるために、お医者さんに話すとよいでしょう。

薬に頼るということは、残りの人生をずっとそれに頼る必要があるというわけではないのです。PPDは治療すればしばしば6ヶ月から1年でなくなります。

ほかの処置

お医者さんは以下の処置をひとつ、あるいはそれ以上おすすめになるかもしれません。

セラピー

認知行動療法やトークセラピーという治療では、お母さんは精神科医、心理学者、セラピストやその他の精神健康関係の専門家など、問題を解決し感情に向き合う人と話をします。

光療法

専門家たちはいくつかの結果は矛盾しておりさらなる研究が必要だとしていますが、光療法はうつの症状を軽減するために行われます。光療法のあいだ、お母さんは日光を模した箱の正面に目を開けて座り、症状を軽減する好ましい生科学的変化を起こします。

鍼治療

鍼はうつの症状を軽くすると、いくつかの調査が示しています。

支援団体

PPDの支援団体はたくさんあります(ネット上や、もしかしたらお母さんのお近くの地域にも)。同じ経験をしているほかの人たちと話せば孤独感を軽くできるかもしれませんし、症状と感情をよりよく制御する方法を見つけられるかもしれません。しかし支援団体は助けにはなりますが、薬やトークセラピーの代わりにしてはいけません。

避けることはできるの?

PPDはお母さんが悪いのではないということを覚えておいてください。それの原因をお母さんがつくれるわけでも、防ぐ絶対的な方法があるわけでもないのです。しかしPPDの過酷さの削減を潜在的に助ける、出産前後にできることはいくつかあるのです。

自分自身の準備をする

生まれたときから顔に傷のないTVの赤ちゃんは、できものだらけででこぼこでしわの多いほんものの新生児ではなく、生まれてから時間のたった赤ちゃんです。分娩の痛みひとつなく穏やかに美しく出産する映画の中のお母さんなんていません。信じられないくらいすらりとしていて裕福で、トレーナーやシェフ、ばあやのいるお母さんはなおさらです。フォトショップはいうまでもありません。

出産と母になることについて非現実的な期待を抱くことはすでに厳しくなっている局面にプレッシャーを加えてしまう可能性があります。ですから現実的な妊婦さんの心構えをするようにしましょう。両親学級や育児学級、できるかぎり分娩と出産について読む、ほかの妊婦さんや新米ママたちと自分たちの経験について話しましょう。何が予想されるか(そして物事は思い通りには行かないと理解する)知ることは虚脱感を防ぐ効果があります。

近くの支援機関へ

赤ちゃんを生む前に、地域の支援機関に行けば助けが必要なときに手を伸ばすことができます。友達や家族が協力したがったら、してもらいましょう。お母さんはパートナーや姉妹にシャワーに行く間赤ちゃんを抱っこしてもらったり、おばあちゃんに洗濯物をしてもらったり恥ずかしがらずに頼んでよいのです。仲良しの人にどれほど乳首が痛むかたったの5分愚痴をこぼすことでさえ状況に耐えられるようになるのです。
十分な休息は現実から距離をとりつづけるのに絶対に必要です。そして赤ちゃんが生まれたら、ふたたび8時間眠るのには長い時間がかかるでしょう。ですからできるときに仮眠をとっておきましょう。そして赤ちゃんが生まれたら、週に1,2回は夜じゅうかかる赤ちゃんの相手を代わってもらってぐっすり寝ましょう。

よく食べる

ビタミンBとDを含むある種の栄養を十分摂らないと、女性はPPDのリスクが上がるということを研究は示しています。ですからバランスのよい食事にこだわり続けることでよい気分のままいられるのです(そして妊娠期間後の重みを減らすのを助けるのです)。

運動

からだの運動は気持ちを高めるのを助けるだけでなく、たくさんのことについて全体的に良く感じられるようになります。そして研究によれば、妊娠期間中と出産後に運動しない女性はうつの症状をより感じやすいのだそうです。

マラソンをしろというのではないのです(お母さんがランニングを楽しむとしても、妊婦だということは忘れずに!)。歩いたり、ピラティスをしたり、泳いだりほかの妊婦によい運動をしてみましょう。あるいは出産前ヨガクラスに参加してみましょう。瞑想、リラクゼーションや呼吸運動を組み合わせたエクササイズが基本のヨガはうつのリスクを目覚しく下げるという研究結果が出ています。赤ちゃんが生まれたら、リビングルームのあたりでやさしく20分踊らせるか、軽く一緒に歩きよいエンドルフィンが出るようにしましょう。

関係に優先順位をつける

友達と会う時間をつくるのを忘れないようにしてください。社会的孤独は心にこたえますから、ふだんの生活に加え大人の交流も持つようにするのが重要です。地域の母親グループに加入し、友達と毎週ランチの予定を組んだり、(お絵かき、バレエ、ピアノなど、興味のあるものなら何でも)クラスに参加してみましょう。自分の楽しめることをし、ほかの大人たちとともに時をすごすのは「ママ」の外側の自分の感覚を保ち続けるために非常に重要です。

生む前に専門家に会う

もし妊娠期間にすでにうつを経験しているかPPDになるリスクが高いなら、赤ちゃんが生まれる前に専門家の助けを求めましょう。精神科医の中には抗うつ薬を少量処方してくれる人や妊娠期間の第三期、または出産の直後にPPDを避けるためセラピーをしてくれる人がいます。どちらにせよ、できるだけ早くこの問題に立ち向かうのが出産後の物事をラクにしてくれるのです。

関係する状況

産後強迫性障害(PPOCD)

PPDにかかる女性のおよそ30%はPPOCDは単独で起きるものなのにPPOCDのしるしも呈します。症状は強迫性の行動、たとえば赤ちゃんが息をしているか15分おきに起きて確認する、すさまじい家の掃除をする、赤ちゃんを傷つける強迫的思考などです。PPOCDにかかった女性は自分たち自身の血なまぐさい考えにぞっとしますが、自分たち自身にはしません。しかし、ついには赤ちゃんの世話を放棄してしまうかもしれないほど自我コントロールを失うことにたいへんな心配を抱くのです。

PPDのように、PPOCDの処置には抗うつ剤とセラピーの混合が含まれます。もし強迫的思考や行動を自分がとっていると思ったら、自分の症状についてお医者さんに言って助けを得るようにしてください。

産後精神病

PPDよりはるかに稀で、かつ深刻なのが産後精神病です。症状は現実の喪失、幻覚、それに加え(または)妄想などです。もし自殺願望、暴力的あるいは攻撃的な気持ちを経験したり、なにかの声を聞いたり見たり、ほかの精神病の兆候があるなら、お医者さんを呼んで救急救命室にただちに行ってください。

自分の気持ちを抑えたり、そんな気分は産後の時期は普通なのだと安心して先延ばしにしないでください。普通ではないのです。助けをまつあいだになにか危険な感情にかられ行動しないよう、隣人、親戚や友人と一緒にいてもらうか、赤ちゃんをベビーベッドのような安全な場所に置きましょう。

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